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Barefoot in the Creek

 

 開拓初期の頃は軽量済みの土地の五分の一にも足らない区画が部分的に切り開かれているだけだった。政府が所有する未測量の残りの土地は開拓されていないも同然であった。昼間、ブッシュの森深くは静けさというよりは平和で、周囲が静止しているかのようであった。夏にはカラスの鳴き声が耳に障り、物憂い泣き声がだんだんと強くなったかと思いきや、まるで疲れて眠りに落ちていくかのように調子を落としながら消えていく。カササギの鳴き声はおしゃべりをしているようだし、オウムが「トエンティーエイト、トエンティーエイト」と何度も繰り返し鳴き、小鳥たちがさえずりながら木から木へと飛び移る。茂みの中を歩くと、鳥が驚いて枝から風を斬って飛び立つ音や、平安を乱された蛇やトカゲが安全な方へ隠れようとして草が触れ合う音が聞こえる。うっそうとした茂みをカンガルーやワラビーが飛び跳ね、静寂が破られる。冬になると野生動物は、ほとんど見られなくなる。爬虫類は地下にもぐって冬眠し、鳥たちは乾いた木の上で震える体を羽で巻き込んで日の照らす暖かい晴天を待ち焦がれる。雨上がりも葉やブッシュから水滴が滴り落ちて森はさらに活気づく。

未開のブッシュは、木々が密集していて雨の滴が地面にまで落ちることはほとんどない。雨がやんでもぽたり、ぽたりといつまでも滴の音が聞こえる。少なくとも開拓当初はそうだった。今日では、当時のありふれた静寂の音を聴くために踏みならされた道を奥深くまで探してゆかねばならないだろう。夜の自然の音は今では完全に消えてしまっただろう。私たちが開拓地にいた時も、だんだんと無くなりかけていた。日が落ちると、日中活動していた動物たちは活動を止め、昼間の音が消えていく。けれど星の輝く夜になると、独特の夜の音に囲まれる。到る所から、遠くディンゴの低い遠吠えが聞こえた。農家に忍び込んだ狐や他の動物が、犬に吠えられているのが、何キロも離れたところではっきり聞こえた。夕暮れ時にブッシュの奥深くまで入っていくと、カンガルーやワラビーが餌を探して跳ねたり歩き回る音が聞こえてくる。時には、低い木にとまっている袋ネズミの目が光っているのを見ることもあった。夜も更けてくると、夜行性のオーストラリアンふくろうの低く単調な声が、遠くから聞こえる森全体の音に混じって「モーポー、モーポー」とはっきり近くに聞こえてきた。