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グリーン&ゴールドの代表ウェアーで、パースから2024年パリ・オリンピックへ!

20世紀初頭に水上アクロバティックを披露して、アーティスティックスイミングをスポーツとして世界に普及させたのが、オーストラリア人の競泳選手、Annette Kellermann(アネット・ケラーマン)だったことはあまり知られていない。ただ、2018年に「シンクロナイズドスイミング」から「アーティスティックスイミング」に名称が変わったことは気付いている人も多いはず。このアーティスティックスイミングは、オリンピックにおいて過去の偉大な選手たちよって日本ではかなりの市民権を獲得しているが、オーストラリアも出場常連国となっていることはご存じだろうか。そのオーストラリア代表チームのコーチとして日本人が、2024年のオリンピック・パリ大会に参加している。

当初は、2032年のオリンピック・ブリスベン大会に向けた選手のリクルートや指導のためのプロジェクトを目的としてパース入りした小野祥子さん。オーストラリアのアーティスティックスイミングを主る『Artistic Swimming Australia Ltd』の事務局はクイーンズランド州にあるが、代表チームはパースのHBF Stadium内のNational Centre of Excellenceでトレーニングしている関係で、代表チームの指導にも参加することになった小野さん。そして2024年8月、オーストラリア代表チームのコーチとしてオリンピック・パリ大会へ代表チームに帯同した小野さんは、パリの地でグリーン&ゴールドのウェアーに袖を通し、教え子たちの晴れ舞台を見守った。

2024年12月で一年半以上に渡ったプロジェクトを完遂して、日本にに帰国した小野さん。帰国前になぜパースで指導することになったのか、また日豪のアーティスティックスイミングの違い、そしてオリンピックでの出来事などについて伺った。加えて、2025年2月から『Artistic Swimming WA』後援の無料アーティスティックスイミング・クラス開催についての情報も紹介する。

インタビュー:2024年11月
写真:一部写真は本人提供


質問:なぜ、パースでアーティスティックスイミングを指導することに?
「2019年に“青年海外協力隊”で知られる『JICA海外協力隊』のメンバーとしてインドネシアで、アーティスティックスイミングの指導にあたっていました。当初は活動に生甲斐を感じ、指導も楽しんでいましたが、2020年の世界的なコロナのパンデミックのため約半年で現地活動が不可能となってしまい、日本帰国を余儀なくされました。ただ、その活動が志半ばで気持ちの整理がつかない状態が続いていたので、日本のアーティスティックスイミングの関係者に“海外での活動の機会を探している”ということを伝え続けたところ、“オーストラリアの西豪州で2032年のオリンピック・ブリスベン大会に向けた選手の発掘、育成ができる人を探している”といった話を聞き、“やりたいです!”と即答したのがきっかけでした。」


<コロナ禍前、インドネシアにて指導にあたっていた小野さん>
 

質問:コーチをする前はご自身も選手だったんですか?
「はい、全く優秀な選手ではなかったですが(笑」

質問:選手としてアーティスティックスイミングとの出会いをお聞かせ下さい。
「小学生の時、スイミングスクールに通っていましたが、そのスクールを通して参加した水泳大会の昼休み中にアーティスティックスイミングを初めて見ました。そして、小学校5年生の時に転校してきた同級生からアーティスティックスイミングを一緒に習わないかと誘われたのをきっかけに競泳から当時の“シンクロナイズドスイミング”に転向しました。」

質問:高校3年生まで選手生活を続け、その後なぜコーチへと歩みを進めたのですか?
「今考えると、そこまで深く考えずにコーチの道へと踏み込んだのかもしれません。自分が選手として引退した後、お世話になった出身クラブでコーチのお手伝いを始めたのですが、クラブでの後進の育成をお手伝いをするというのは引退した選手の風習のようになっていたので。ただ、お手伝いを続けていく中で、選手たちががだんだんと上手になっていったり、それぞれの目標を達成する現場に立ち会える楽しさを知り、気付いたらコーチになっていたという感じですかね。」

質問:オーストラリアで指導にあたり、日豪のアーティスティックスイミングの違いはどう感じましたか?
「日本におけるアーティスティックスイミングは、オリンピックでメダルを取る種目といったぐらい選手たちにはレベルの高いものが求められています。競技を始めるほとんどの子どもたちは選手になることを目指し、将来はナショナルチームに入ることを目的に競技に携わっている子が多くいると思います。実際、選手を含めアーティスティックスイミングに携わる人の8~9割が競技として、残りの2割前後がレクリエーションで楽しむといった感じです。一方、オーストラリアで指導することになって感じたオーストラリアでのアーティスティックスイミングは、まだまだ認知度が低く、コミュニティスポーツとしての側面が強いということです。つまり、競技としてのアーティスティックスイミングは発展途上であり、選手数もかなり限られています。なので、オーストラリアで競技に携わる人は3~4割、レクリエーションが半分以上といったイメージでしょう。逆に、マスターズのカテゴリーでの参加者は多いのが特徴とも言えますね。」


<『Artistic Swimming WA』では、オーストラリア・ワイドで選手の発掘や育成の仕事もこなしつつ、ローカルのクラブチームではまだまだ競技を始めたばかりの子どもたちへの指導も行う小野さん>
 

質問:オーストラリア代表チームの一員としてパリのオリンピックでは何が一番印象的でしたか?
「選手たちが一歩ステージに上がった時の大歓声と拍手です!他の大会では感じたことのないような会場の一体感、応援のエネルギーは選手のサポートにもなったのではないかと思いました。」

質問:パリでの競技終了後、教え子の選手たちにどのような言葉をかけましたか?
「“Well done! Good swim!!”と演技直後に、選手を『Kiss and Cry(※)』で迎えた時に伝えました!」
※競技後、選手とコーチが採点結果の発表を待つためにプール脇に設置された小さな待機スペース


<アーティスティックスイミングがオリンピックでの競技種目になって過去10大会中9大会に出場しているオーストラリア代表。ただ、メダル獲得はいままでない。今回のオリンピックも、団体種目は10チーム中9位だった。しかし「オーストラリア人はフィジカルが長けているので、そういった長所を伸ばしていければこれから結果につながっていくと思います」と話す小野さん>
 

質問:最後に、小野さんにとってアーティスティックスイミングの魅力は?
「チームのメンバー全員が力を合わせて行うアクロバティック動作や、同調性の高い足技などが競技の特性として挙げられますが、各チームがそれぞれの演目ごとにテーマを設定して、演技のみならず曲や衣装、メイクアップなども使って表現しており、ミュージカルを観ているかのように楽しめることだと思います。」


<精力的に指導する小野さん。休む暇なく、選手たちに声をかけ続ける>
 


インタビューの最後に今後の活動について伺うと「まずは日本に帰国しましすが、今までの経験が活かせる場所があれば、そこで精いっぱい仕事をしたいと思っています!」と笑顔で応えてくれた。小野さんが指導したインドネシアやオーストラリア、またこれからもし日本以外の国で指導された時、その国の選手たちが次のオリンピック、そしてその先のオリンピックで活躍することを期待したい。
 

【『Artistic Swimming WA』後援の無料アーティスティックスイミング・クラス開催について】
クラス名: CALD (Culturally and Linguistically Diverse) Recreational Artistic Swimming Classes

『Artistic Swimming WA』後援の「CALD Recreational Artistic Swimming Classes(カルド・レクリエーション・アーティスティック・スイミング・コース)」を2月から開催します。文化や言語が異なる人(ローカル、またはオーストラリア人以外)向けのクラスとなります。初心者大歓迎ですので、まずは以下のリンク先から新規登録を済ませ、「CaLD Artistic Swimming Class」を選択して参加申し込み手続きを行ってください。詳細についてはクラスを開催するクラブから連絡します。

リンク先:https://www.supanovasynchro.com.au/classes/39629
※このクラスは参加者の人数によって開催日や期間が変わることもあります。まずは申し込み手続きを済ませ、担当者からの返信をお待ちください。

参加費:無料
参加資格:オーストラリア以外の外国での居住経歴や英語以外の言語を話せる。5歳以上。水の中での基本的なアクティビティができる。
期間:2月5日~4月11日(西豪州の公立学校のTerm 1の期間)
レッスン:週1回、または2回(未定)
開催クラブ:SupaNova Synchronised Swimming Club(www.supanovasynchro.com.au
会場:Leisurefit Booragoon(521 Marmion St, Booragoon)


<(写真:手前)当クラスを担当するMaitane Iglesias Vazquez(マイタニ イグレシアス バスケス)さん。『Artistic Swimming WA』のAssistant Development Officer。スペイン出身。7歳からアーティスティックスイミングを始め、19歳まで選手として競技に取り組む。並行して、17歳からコーチとして指導をするも、2023年にオーストラリアへ>

 

<プロフィール>

小野 祥子(おの しょうこ/Shoko Ono)
神奈川県横浜市出身。11歳~18歳まで選手として地元のクラブでトレーニングを続け、その後コーチとしての経験と学びを深めるために『アクラブ藤沢』へ移籍して経験を積む。大学卒業後は民間企業で仕事をしながら、時間を見つけては同クラブで指導を続ける。20歳を機に日本で審判員資格を取得し、コーチと審判の両面での活動を開始する。2016年に友人の紹介でインドネシアの州代表チームのコーチをきっかけに海外でのプロコーチの道に興味を持ち、2019年にJICA青年海外協力隊として、再びインドネシアでコーチに就く。2020年にコロナの影響で日本帰国。2021年に『Artistic Swimming WA』のプロジェクトを知り、2022年に短期で西豪州を訪れ、現地を視察。2023年4月より正式にPathway Development Officeとして『Artistic Swimming WA』と契約を結び、選手発掘や強化育成に携わる。2024年8月、オーストラリア代表チームのコーチとしてオリンピック・パリ大会に参加。2024年12月『Artistic swimming WA』との契約期間満了にて日本に帰国。

 

 

【情報元】
◆ Artistic Swimming Australia Ltd(www.artisticswimming.org.au
◆ Artistic Swimming WA(https://synchrowa.org.au
◆ SupaNova Synchronised Swimming Club(www.supanovasynchro.com.au

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