オーストラリアのサッカーAリーグでは、一チームに5つの外国人登録枠が設けられている。今シーズンのパースグローリーは、その5つの外国人枠に日本人選手が3つ宛がわれことになった。外国人枠は自国の選手の出場権利を確保するという目的もあるが、レベルの高い選手を入団させ、即戦力を補強するといった制度でもある。クラブは5つの枠を最大限に利用して、外国人選手がチームの勝利に直結する活躍を期待している。グローリーも然り、5つの枠に日本人が3選手も在籍するこの現状は、日本のサッカー、Jリーグ、日本人選手と、オーストラリアのサッカー、Aリーグ、オーストラリア人選手との関係性の変化を如実に現わしている。
今回、パースグローリーに2人の日本人選手が入団した。Jリーグの湘南ベルマーレから岡本拓也、京都サンガF.C.から三竿雄斗がその2人だ。1月11日にパース入りし、メディカルチェックを受け、1月16日に入団が発表された。そして、三竿は1月25日のNewcastle Jets戦(アウェイ)でAリーグデビューを果たした。そして、2月15日のMelbourne City戦(アウェイ)が岡本のAリーグデビュー戦となった。パース入りしてまだ間もない2人に話を伺った。
※インタビュー日:2025年1月22日
Aリーグを知る記者の視点から更に詳しくパースグローリーの選手紹介や試合結果についてお届けする。
背番号36番 DF 岡本 拓也
質問:なぜ、新天地がオーストラリアのパースだったのですか?
「もともとオーストラリアに行きたいと思っていて、(オーストラリアでプレーしている日本人選手で)知ってる人も多かったし、凄くポジティブなイメージを持っていました。英語圏で暮らせるっていう魅力もありましたし、その中でグローリーから声をかけて頂き、即決でした。」
質問:サッカー面でのキャリアについてスケールダウンとは考えなかったですか?
「スケールダウンとは思わなかったですね。Jリーグで10年以上やってきて、特に9シーズンも湘南にいて、どこかで“何か自分の中で大きく変えなきゃいけない”という思いがありました。Jリーグで(試合に)出る経験と、こうやって海外に来ての経験は全く違うものがあると思っています。今後の人生においても、(この移籍は)必ずプラスになると思っているので、もしスケールダウンだと言われてもその部分は気にならなかったです。」
質問:オーストラリアでのサッカーにおけるご自分の成長は?
「あると思います。“サッカーとは?”の正解は一つではないので、日本のサッカーや、いろいろなサッカーに触れるというのは凄く大事なことだと思っています。確かにJリーグの方が戦術や技術的にはレベル高いと言われていますが、それぞれの環境でアジャストしていくことは成長につながるし、今後の人生においても大事なのかなと思っています」
質問:生活面での期待も大きいですか?
「それもありますね。誰も自分のことを知らない所に来たかった、というのはあります。湘南に長く居させてもらい、みんな自分のことも分かっている人が多くいて、知っているからこそ何でも許されてしまう部分とかもあったとは思います。なので、こういう全く違う環境に来て、サッカー以外の部分の自分を鍛えるというのも求めていたと思います。」
<背番号36番の岡本は2月15日のMelbourne City戦(アウェイ)でベンチ入りし、74分からピッチに立つ。Photo:10 Play Screenshot>
質問:ご自身の中のサッカーと生活の位置付けは?
「人生の一部としてサッカーがあるので、そこは分けて考えられませんね。例えば、Jリーグで成功しても、こちら(のAリーグ)で成功できるとは限らないし。生活もアジャストできてこそサッカーでの活躍もあるわけで。」
質問:こちらに来る前に、日本にいる時に期待していたことは?
「期待もありましたが、不安の方が大きかったです。言葉の問題やサッカー面、パースがどういう場所なのか、その環境に適応できるのかといった不安がありました。」
質問:実際、来られてどう思いましたか?
「間違いなく成功だったと思っています。みんなウエルカムですけど、ある意味アウェイの中に入って、全く知らない土地で一から構築して、自分の居場所を確立する作業は難しいことも多いですが、これを求めていたと再認識しました。実際、日本にいれば将来、湘南でスパイクを脱ぐといった選択があったかもしれません。第三者はそれが美しい形と思うかもしれませんが、そうすることは何か自分が楽な方を選択しているのではという感覚があったので。今まで長崎、湘南へ移籍してきたタイミングで成長できたという感覚があったので、成長するためには新しい環境に自分をぶち込むしかないと思っていました。」
質問:最後に、目標を聞かせてください。
「チームが今、厳しい順位にいるので一つでも上の順位に、良い方向にもっていけるように自分の力を発揮したいと思います。自分の長所は一対一の守備のところと、ロングランやスプリントで上下動できるところなので、そこを活かせればと思っています。」
<2月15日の試合でAリーグデビューを果たした岡本は、日本でも主戦場としていた右サイドバックでプレーした。Photo:10 Play Screenshot>
背番号17番 DF 三竿 雄斗
質問:移籍先がオーストラリアだったのはなぜですか?
「子どもの頃、海外に住んでいたというのもあり、昔から海外でプレーしたいという想いはありました。もちろん、サッカーだけではなく、引退した後に海外で生活したいという想いもあって。あとは、日本での(サッカーをする)モチベーションの維持も徐々に難しくなってきていて、この辺で思い切って国内ではなく環境を変えて、国外でやった方が良いのではないかと思ったからですね。」
質問:海外のどちらに、いつ頃住んでいたんですか?
「父親の仕事の関係で、5歳から10歳までカナダのトロントにいました。行っていた年代が良かったのか、意外に英語を忘れてなく、まだそれほど一緒に練習はできていませんが、チームメートとのコミュニケーションはそんなに困っていませんね。」
質問:キャリアにおいてサッカー面でオーストラリアを選ばれたのはダウンサイジングでは?
「レベル的にJリーグの方が高いかもしれませんが、ただ高いレベルでやるだけが本当に幸せなのかと言われれば、そうじゃないと思っています。新しい価値観でサッカーをやってみようと思っています。もちろん、まだまだサッカーで上を目指してますし、長くやりたいし、上手くなりたいという気持ちは変わらないです」
質問:グローリーへの移籍は生活面も考慮に入れてのことですか?
「サッカーと人生を切り離しては考えられないですが、比重としてはまだフットボーラーとしてやっていきたいという気持ちの方が大きいです。ただ、先のことを考えなくてはというものはもちろんありますが、そんなにこれからの人生や未来のことを考えてるわけでもないですね。」
<1月25日のアウェイ戦、対Newcastle Jetsとの試合でAリーグデビューし、翌節のMelbourne Victory戦(2月1日)で地元ファンへのお披露目となった。68分からピッチに立ち、相手の攻撃の芽を摘んだ(写真上)。Photo: Perth Glory>
質問:今回の移籍については今の段階でどのように思ってらっしゃいますか?
「行く先は“こっちの道の方へ行った方が良いんじゃないか”くらいの感覚で、今まで決断してきました。今を楽しむことを大切に、パースでもそれができればと思っています。」
質問:大分トリニータから京都サンガF.C.に移籍した時もそのような感覚だったのですか?
「大分の4年間は自分の中でも充実していました。大分との契約も残っていましたが、湘南の時にお世話になった(当時の監督の)曺さんが呼んでくれたというのと、(大分が)居心地が良すぎたというのもあり、ちょっと環境を変えなくては駄目なのかなっていうのがありました。自分も結構人見知りなところもあるし、いろいろな関係性を変えるのも怖かったですが、きっと行った方が良いのかなみたいな直感でその時も移籍をしました。」
質問:ご自身のプレースタイルを教えて下さい。
「ベースはスプリントの上下動ですね。(味方選手を)追い越す動きのタイミングや予測、ビルドアップのところで自分の立ち位置で他の選手がプレーしやすくする動きも、だと思っています。」
質問:最後にご自身の目標は?
「日本でのシーズンが終わってから結構時間経ってしまっているので、コンディションを上げて、まずはコンスタントに試合にでることですね。あとは、チームの中心になりたいですね。やるからには優勝を目指したいと思っています。Aリーグは毎年どのチームが優勝するか分からないぐらいチーム間の実力の差がないと聞いているので。」
<背番号17番の三竿にとって3試合目となったアウェイでのCentral Coast Mariners戦(2月7日)は短い時間での出場だったが、4戦目の2月15日、Melbourne City戦(アウェイ)では今までで最長の30分以上のプレーで、存在感を発揮した(写真上)。Photo:10 Play Screenshot>
【2025月2月と3月のPerth Gloryの試合日程】
(Round 20) Sydney FC
2月22日(土曜日) 6:45pmキックオフ 会場:HBF Park(★)
(Round 21) Western Sydney Wanderers
3月2日(日曜日) 2:00pmキックオフ 会場:CommBank Stadium
(Round 23) Brisbane Roar
3月15日(土曜日) 6:45pmキックオフ 会場:HBF Park(★)
(Round 24) Central Coast Mariners
3月30日(日曜日) 12:00pmキックオフ 会場:Industree Group Stadium
※(★)はホームゲーム、時間はパース時間。
岡本 拓也(おかもと たくや/Takuya Okamoto)
生年月日:1992年6月18日
出身:埼玉県さいたま市
身長/体重:175cm/75kg
ポジション:ディフェンダー(DF)
三竿 雄斗(みさお ゆうと/Yuto Misao)
生年月日:1991年4月16日
出身:東京都武蔵野市
身長/体重:175cm/70kg
ポジション:ディフェンダー(DF)
青山 景昌(あおやま ひろあき/Hiroaki AOYAMA)
生年月日:1996年10月14日
出身:愛知県津島市
身長/体重:169cm/65kg
ポジション:フォワード(FW)/ミッドフィルダー(MF)
【文】 今城康雄(いまなりやすお)。パースの日本語メディア「The Perth Express」の代表兼、編集長。2005年のAリーグの開幕以来、リーグ公認のメディアとなっている「The Perth Express」のジャーナリストとしても、パースグローリーのホームゲームはほぼ全試合、記者席より取材を重ねてきた。また2020年は、パースグローリー日本地区担当マネージャー兼通訳として太田宏介氏をサポート(関連記事はこちら)。2022年にはWA州のNPLで活躍した今田海斗氏の通訳も行う(関連記事はこちら)。
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