日本とは社会の習慣やシステムが異なり、また言葉の違うオーストラリア。そこで起こった法的トラブル。パースの弁護士事務所の弁護士やプラクティス・マネージャーが毎月、ケーススタディで問題解決のアドバイスを提供する。
ケーススタディ 03
職場でのトラブルについて
「一緒に働いているスタッフが嫌がらせをしてきます。そのせいで最近、体調を崩しています。どうしたらいいでしょうか?」
「オーストラリアで働いている皆さんは、労働者としての権利や雇用主の義務をどこまでご存知ですか?日本ではブラック企業、長時間労働に安い賃金、上司からのパワハラやセクハラ、社内でのいじめや不平等な待遇などという言葉がメディアで取り上げされていますが、過労死はオーストラリアでも“Karoshi”として認識されつつあります。ここでは、労働者の権利や雇用主の義務についてご紹介します。
【給与明細】
雇用主は、給料日支払いの翌日までに給与明細を提出しさなければいけません。週払いは毎週、月払いは毎月、雇用主が休暇で不在でも従業員に給与明細を渡すことが義務付けられています。
【最低雇用条件】
2018 年の7月1日より、オーストラリアにおけるフルタイム最低賃金が$719.20(週)、または時給$18.93となりました(年齢によって減額や、職業別の最低雇用条件が決められてない人が対象)。そして、雇用条件が決められている職種や職業は、労働時間や仕事内容、最低雇用条件などが年齢や経験等によって詳細に決められています。職業や業種により労働者の権利と雇用主の義務も定められていて、それに従わない雇用主は罰則の対象となります。
【現金支払い給与や給与明細をもらえない場合】
雇用主が従業員に現金で給与を支払うのは違法ではありません。但し、給与明細に正しく働いた時間や天引きされた所得税の金額、額面の月給が$450を超える人は9.5%の年金積立金額などが記載されていることが重要です。現金で支払う雇用主の中には証拠となる給与明細や年度末の源泉徴収証明書を提出しなかったり、雇用事実の記録さえ故意に残さなかったりする人もいます。所得税を天引きすると、最低賃金に満たなくなることが発覚するのを恐れ、所得税を支払わなかったりするケースもあります。確定申告で税金の払い戻しをする際、ほとんど戻ってこなかったり、最悪の場合は税務署より年度分の未払いの所得税を一括請求される可能性も出てきますので、現金で給与をもらうときは注意しましょう。また、雇用主が雇用届けを出していない場合や、正しい労働時間や給与を申請していなかった場合、勤務中の事故やケガを保険で支払う医療費や働けずに受け取れなかった給与の保証など受けることもできないこともあります。
【解雇または不当解雇】
会社の都合により解雇、または不当解雇を言い渡された場合、労働者の権利や雇用主の義務が法律で決められています。余程のことがない限り、理由も告げられず「明日から来なくてもよい」というのは通用しません。職業別の最低雇用条件の中に解雇の理由により労働者の権利(解雇の時に貰える手当)や雇用主の義務(解雇通達の仕方や手順などを含む)がそれぞれ決められています。
【職場でのいじめや差別】
今回の質問への返答になりますが、性別や人種、性格や体形、年齢などで嫌がらせを受け、または雇用主がそのような差別をする、一緒に働く人がいじめや差別をしている場合、雇用主は労働者に安全かつ正当な労働の場を与え、管理し、保証する義務があります。日記や写真、ビデオなどの記録は申し立てをした場合、後にとても重要な証拠となります。いつ誰に何をどのように言われされたか、記録しておくことをお勧めします。
【あなたの権利は?】
日本の雇用体系の会社至上主義と比べると、オーストラリアの場合は労働者の権利が手厚く保護されているという印象を受けます。それでも、まだ日本人の美徳である雇用主に対する忠誠心から“我慢”や“泣き寝入り”をして、精神や健康を害する人たちがたくさんいることも事実です。労働者としての権利を知り、未払いの賃金や法律で定められた残業代や手当、職場が原因の病気の治療費請求申し立てなど、弁護士がお手伝いできることも多くあります。雇用法には複雑な申し立ての時効などがあるため、プロの手を借りることが望ましいです。せっかくのオーストラリアでの思い出を雇用主の搾取や、辛い経験などで終わらせないよう、そして不当な扱いを受ける犠牲者を自分の後に続かせず、労働条件が少しでも改善されるためにも労働者としての権利や雇用主の義務を知っておくことは大切でしょう」
〈参照〉
Fair Work Ombudsman Australia www.fairwork.gov.au
Australian Taxation Office www.ato.gov.au/Individuals
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