戦争反対の大集会が首都ワシントンD.C.で行われる。そんなニュースを伝え聞いた。米国内の各地から首都へ向けて、反戦への意思表示のためにバスで大キャラバン隊を組んでの抗議行動を起こすという。その場には、絶対に行ってみたい。写真に記録しておきたい。そういう衝動に駆られた。 噂に聞いていた、かつてのベトナムの反戦運動時のワシントンへの集結。記録としてのみ知っている、60年代の公民権運動の盛り上がり ─ ワシントン大行進の実像が浮かんできた。
 自分も、もしかしたらそれに参加するのかも知れない。そう思うと、この自分も歴史の一部、社会の一部の存在だという実感が湧いてきた。しかし、そうは感じていても、その時は目の前の出来事を撮すという行為だけが最優先していた。何のために写真を撮るのか。深い意識は全く目覚めていなかった・・・。

 1月20日、湾岸戦争開始から5日後、30万人(主催者発表)に及ぶ人びとがワシントンD.C.に集結した。初めて経験するその雰囲気に自分は酔っていた。彼らが何に反対しているのかまるで分かっていなかった。だが、彼らの熱気だけは伝わってきた。そう、彼らは戦争そのものに反対しているのだと。戦争とは悪いのだ、と。米国全体がその意思表示をしているのだという、大きな錯覚に囚われていた。その思い込みは、目の前にいる群衆の姿からだったのだろうか、それとも彼らの意思表示の強さだったのだろうか。
 当時のテレビ・新聞等のメディアの意見がどのようであったのかは、はっきりとした記憶にはない。しかし、開戦当時は、個人的に、自分の回りの意見は、圧倒的に反戦であった。それが遠く離れた地域で起こった、 概念としての「戦争」に対する態度であった。
 しかし、それが大きな錯覚だと気づくにはそう時間はかからなかった。
(つづく)

 


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