私の通っていた学校は、ボストンの中心街の外れ、ケンモアスクエアに面して建っていた。長時間の暗室作業に疲れ、一休みするため、2階の5畳ほどのせまい休憩場所のソファに腰をおろした。窓からは、ボストン大学に通じるビーコン大通りを見下ろせた。その通りの様子がなんだかおかしいことに気づいた。やけに騒々しい。
 「ユウゾー!デモだ」
 その一言で、カメラと手持ちのフィルムを持って学校を飛び出した。 

 真冬の、冷たい雨の降る夜だった。戦争を反対する人びとが声をあげていた。横断幕やプラカードを手にして、学生を中心とするおよそ300人の市民が、反戦のデモ行進を始めていた。前年の8月、イラクによるクエート侵攻直後から、米国によるイラク攻撃を予感して、戦争に突入反対のデモは市内でたびたび行われていた。しかし、今夜の反戦デモは、戦争が始まったことによって、まさに「反戦」となった。
 テレビのニュースを見ているだけでは、戦争に対する実感はそれほどなかった。だが、こうやって、実際に戦闘が始まって、その動きに対して人が動き反応すると、本当に戦争が始まってしまったのだと迫りくるものがあった。テレビを見ていた、つい数時間前とは全く違った印象だ。
 雨の中、反戦を叫ぶ人々がボストン大学の寮の前にさしかかった。そのとき、何名かの学生たちが、その反戦の集団に抗議の声をあげた。たちまち、その声に加勢する人が増え、100人以上の規模に膨れあがった。寮の窓からも「交戦支持」の声が飛んできた。大きなグループになった反戦・交戦の集団が激しいヤジの飛ばしを始めた。
 翌日から、イラクへの攻撃について支持・不支持の声が、これまで以上に語られるようになった。私の個人的な印象ではやはり、戦争そのものに対する嫌悪感から、イラクへの攻撃を反対する雰囲気が強かったようだ。それはやはり、ベトナム戦争の後遺症があったようだった。

   


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