パースエクスプレスVol.111 2007年4月号

「ヒマラヤ山系−東の端から(1)」

 山を歩いて23日目のことだった。一緒に行動している9人が休むのに適当な大きさの日だまりを見つけた。そこに先客として、ラワン族のクンシンディーという男の子が、1人で身体を休めていた。目がくりくりっとした、不二家のミルキーのペコちゃんのような顔立ちである。傍らには、豆がぎっしり詰まった袋を竹カゴに入れている。どのくらいの重さの豆を担いでいるのだろう? 興味があって、竹カゴに手を出してみた。が、片手では持ち上げることはできない。両手で持ってみた。これも、持ち上がらない。ズンと重たい。腰に力を入れて、やっと数十センチ、竹カゴが地面から持ち上がった。こんな重たい荷物を担いで山肌を上り下りしているのか。おそらく30キロぐらいあるであろう。驚きであった。私自身の持ち物は、カメラ2台とジャケットなどで5キログラムぐらい。他の荷物はポーターに持ってもらっている。

 こんな荷物を担いで、どのくらい日数を歩き続けているのか。「覚えていないよ」。それが彼の口から返ってきた一言だ。えっ、覚えていない。ほんと? 私とは言えば歩きながら、あと何日、何マイル歩けば次の目的地に着くのか、そればっかり考えているのに。
 私を案内してくれているガイドによると、「彼の住んでいる村から考えると、たぶん(片道)5〜7日は歩いている」との推定。なんと、雨降る中、たった一人で、奥深い山の村々に立ち寄りながら、豆を買うために村を発ってきた。それもほとんど、けもの道といっていい山の中をだ。
 やはり一人での行動は寂しかったのか、クンシンディーはその日から、私たち一行と行動を一緒にするようになった。 (続く)

 

   

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