パースエクスプレスVol.110 2007年3月号

「『デジカメ』一考−その4−」

 なのに、山は違った。往復のほぼ2/3を雨にたたられた。雨降りの用意も、その心構えもしていなかったので、これにはホトホト参った。宿を提供してくれた村では毎日、囲炉裏で濡れたシャツと靴下を乾かしていた。あるいは野営したテントに大粒の雨が、バタバタと音を立てて降り注いだ日々もあった。
 山に入って、最初の2〜3日で足の筋肉に痛みが起きる。約一週間後、身体が歩くことに慣れ始める。が、きつい坂になるとさすがに足がついていかない。転んだ回数は数え切れない。樹海を思わせる鬱蒼と茂った道も多くあった。目の前には、いかにも滑りそうな苔生す岩が迫ってきた。脳ミソは、その岩に足をのせてはダメだと身体に指令を出す。だが、疲労しきった足には、脳の命令は届かない。やっぱり、ズルッ、ドタッとこけてしまう。当然のことだが、身体の調子にが脳についていかないのだ。

 

 テンポよく歩いているとき、頭の中は真っ白になる。爽やかな風を受けて歩調にリズムが出てくると、足は自然と前に出て、気分も良くなる。そのせいか、意味もないことを延々と考え続ける(今振り返ると、何を考えていたのかよく思い出せないが)。
 あれ、なんでオレはこんな事を考えているのかと、そのことに驚くこともある。自分で自分の思考をコントロールできない状態に陥っていることに気づいたりもする。
 この連載でも何度か触れたが、私自身、ジェームズ・ナクトウェイという天才的な写真家の写真を見て、身体を震わせたことがある。また、中米エルサルバドルにおいて、目の前の群衆の熱気に煽られ、感動で身体が痺れたこともある。
 あ、そうか、そういうことか。

   

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