パースエクスプレスVol.106 2006年11月号

「写真に思想と現実を写し込めるのか」

  人は生まれながらにして独裁者であったわけではない。ビルマにおける現在の独裁者タンシュエ上級議長も、生まれながらにして独裁者であった訳ではない。一時は、民族解放を求めて帝国主義、植民地主義と戦った兵士でもある。 彼の存在もまた、歴史的な産物である。その歴史の中には、英国も、日本も、もちろん中国や米国の存在を抜きにすることはできない。自らの国の歴史の非を棚に上げて、タンシュエ上級議長だけを責めるのは無理がある。人と同じように、国家もその政権も、自らの正義だけを押し通そうとすれば、そのしっぺ返しはまた違った形で出てくる。

  思想と現実を合致させようという、そういう考え方がおかしいのかもしれない。あるいは、現実生活の深さと重さに、自分の行動の思想に破綻が生じ始めたのかもしれない。あるいは、考えるだけでも限界があり、行動するだけでも壁にぶち当たる。ただ単純にカメラを持って、現実を切り取ることだけを考えていた時代が懐かしい。

  今、取り得るべき最適の道は、行動しながら現実を俯瞰し、自分の考えを内省することだろうか。あれやこれや考えながら、新しいカメラを手にして、また目の前にビルマ入りが迫っている。

   

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