「自分は自分の主人公?」

 人間の人生をひとつの物語として見ることは、意義深いことと思っている。自分の人生を物語としてみるとき、さしずめ『主人公』は自分ということになるが、それが一番大切な存在ではないことを知ることによって、その物語が深みをもつのではなかろうか。・・・・・。自分よりも大切な存在とは何かを常に問いかける姿勢を持ち続けることによって、たとえ答えは簡単に出て来ないとしても、人生が豊かになると思われる。

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 確かに人生は楽しいことばかりではなく、苦しみや悩みの連続である。仕事・人間関係・家族・経済的事情、毎日の暮らしの中で、時に何で生きているのだろう、と思ってしまうこともあるかも知れない。でも、よくよく考えると、この世に生を受けたのも、そして、寿命が尽きて死に行くときも(自殺をしない限り)、決して生きていることは自分の意志だけで行っているわけではない。

 どこかで自分以外の、おそらくは人間の意志を越えたものによって支配されていると考えざるを得ない。もっとも、決して、宗教的になりたいのではない。

  例えば、自分の経験に照らしてみると、ジャングルの中で、なかなか言葉では表現できない過酷な取材をしたことがある。山から下りて町に戻って来た。肉体的にも精神的にも緊張が続いていた。ふと、その緊張の糸が切れたのか、自分が自分でなくなっていた。するとどうだろう、見るもの、自分の目に映るすべてのものが美しく、躍動感あるものに見え始めたのだ。
  信号機が赤から青に変わるのを見て、「おおっ」と思い、道行く人や立ち止まっている人を見るだけで楽しくなる。その時、自分が立っていたアスファルトを見つめた。そんなありふれたアスファルトでさえ、工事をしてくれる誰かの手を経ているのだなあ、と思ってしまう。

 


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