撮影被写体が決まれば、三脚を組み立てる。その次に、三脚の上にカメラを組み立てる。露出を露出計で測り、黒幕を被ってピントを合わせ、シャッターにつながったリリース(細長いワイヤー)ケーブルを押して、でようやくシャッターを切ることができた。
一枚の写真を写すのに、結構な手間と時間がかかる。
それゆえ、シャッターを切る前から、どうしてその場でその瞬間にシャッターを切るのか、意識的にならざるを得ないのだ。毎日、その繰り返しをすることによって、自分の身体に、構図と光の間合いを測ることを覚えさせていった。
大袈裟かも知れないが、身の回りや風景への見方が変わった。歩道に立つ電柱や広告、家の並び方や人の動き、ひとつ一つに対して過剰な注意を払うようになった。信号待ちをする人の手の位置。駐車中の車の並び方。建物の窓ガラスに反射する夕陽の影の濃さ。
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