「撃ち殺してくれ。」両手と両目を失ったPは友人にそう訴えた。
 もちろん友人はそんなことはできなかった。彼のことを聞き及んだKNUの幹部の一人は、「本人がそう望むのなら、殺してやれ」と言った。1週間後、私はその幹部の家に乗り込み、発言の意図を問いただした。
 「我々の戦いには犠牲は必要だ。」風通しのいい大きなテラスでその幹部は言い放った。「もう、戦争はやめてくれ。あんまりだ。」
 そういう私の訴えが無意味なのは分かっている。しかし、それでも言わざるを得なかった。
 KNUが武器を取らざるを得ない状況、難民として国境を越えなければらない状況を知っているだけに、自分自身でも自分の言っている言葉の空虚さを感じてしまった。
 4月だけでも2度、計4000人近い村人がタイ側に逃げ込んできた。彼らは、着の身着のままの姿であった。雨期が始まり、数十メートル先さえ見えなくなる篠突く雨に打たれる彼らの姿を想像するとやりきれない。

 


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