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フォトジャーナリスト宇田有三氏による衝撃ルポ

On The Road by.Yuzo Uda
Vol.191/2013/12

「地道な『国民の知る権利』の行使」



 「知る権利」とは、「言うは易く、行うは難し。」である。「知る権利」を声高々に誇らしく言うのではなく、地道に実践しろ、と。


 では、地道に実践する、とは具体的にはどうすることなのか。
 「特定秘密保護法」が成立した後、危機感を持った人たちは、「忘れない。この法律に賛成した議員は、次の選挙で落とす」と言う。だが、これまでの例にあるように、日本社会の忘れっぽさを考えると、次の選挙前には多くの論点があふれ出て、今回の法律の怖さなどほとんど忘れ去られることになるだろう。メディア報道の中心は、既に太平洋経済連携協定(TPP)交渉に移っている。そして、2020年までは何かと「東京オリンピック」が話題の中心になることであろう。
 だが、そんな先のことより、実際、今も現在進行で「知る権利」が冒されている現実がある。私が個人的に強い関心を持っている、日本の冤罪事件である。
 例えば、「布川事件」で有罪判決を受けた桜井昌司さんは、無実の罪で29年間も刑務所に収監され、再審で無罪判決を得るまで44年もの月日を要した。また、冤罪事件として現在、大きく報じられているのは、「袴田事件」や「名張毒ぶどう酒事件」など(他)もある。「名張毒ぶどう酒事件」の奥西さんなどは、50年近く独房で死刑囚として社会から隔絶されているのである。
 では、冤罪事件を防ぐためには、どうすればいいのか。指摘されているのは、一つには「取り調べの全過程を録音・録画して可視化する以外」にない、と。これは、先の話である。では、現在、冤罪事件として扱われている過去の事件を解決するには、どうすればいいのか。それにはまず、証拠の全面開示が必要なのである。
 「布川事件」の桜井さんは言う。


 検察官の証拠独占も冤罪の原因です。 私の布川事件をはじめ、多くの冤罪裁判で、検察官は無実の証拠を隠し続けています。 なぜ、税金で集めた証拠が検察官の独占物なのか。私には納得できません。
 私が29年も刑務所に入れられ、再審で無罪判決を得るまで、44年も掛かったのは、検察官の証拠隠しが原因です。


 この指摘は、上記の『朝日新聞』が指摘している部分とまさに重なるのである。「税金によって得られた政府の情報は本来、国民のものだ」と。国民の知る権利を行使するには、まず目の前の不条理でアンフェアな情報の扱いに異議申し立てをすることから始まるのであろう。
 地道な取り組み(報道)は、いつでも始められるのである。