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フォトジャーナリスト宇田有三氏による衝撃ルポ

On The Road by.Yuzo Uda
Vol.172/2012/5

「当事者の声がきこえない(上)」


朴玉善ハルモニと裵春姫(ペ・チュニ)ハルモニ

「水曜集会」1,000回目の前夜、「ナヌムの家」の団欒場はいつもと変わらぬ様子。朴玉善ハルモニと裵春姫(ペ・チュニ)ハルモニが最後までテレビに見入る。


   それには大きく2つの理由がある。
 (1)挺対協が「水曜集会」1,000回を記念して、日本大使館前に「慰安婦平和の碑」を建立することになり、それに対して日本政府が(大使館前での)「平和の碑の建設が日韓の外交活動に否定的な影響を与えるだろう」と述べ、建立計画の中止を韓国政府に求めたからだ。  (2)また、昨年8月30日、「韓国の日本軍『慰安婦』被害女性らが賠償請求権をめぐり訴えを起こしていた問題で、(韓国の)憲法裁判所は、韓国政府が解決のための措置をとる義務があるにもかかわらず、履行してこなかったのは違憲であるという判断を下し」、韓国政府が新たな対応を迫られることになったこともある。
 日本政府はこれまで、1965年に締結された日韓基本条約によって、両国の戦後処理は解決されたという立場をとっている。だが、その条約の中に、「慰安婦」問題が含まれていたわけではない。
 
 2002年3月に500回目の「水曜集会」を取材して以来、ほぼ10年ぶりに韓国を訪れた。ソウル中心街でバスに乗り、ハルモニたちが暮らす「ナヌムの家」に向かった。「ナヌムの家」とは韓国語で「分かち合いの家」を意味する。自らが「慰安婦」として名乗り出て、行き場を失った、あるいは家族と生活を共にしづらくなった元「慰安婦」たちが共同の生活を続けている場所である。
 韓国政府に被害を明かした234名のハルモニたちは、2011年12月現在、63名の生存者のみとなってしまった。
 「ナヌムの家」はソウルから車で約1時間半、京畿道広州市郊外に建つ。車窓から見る韓国ソウルの街は、この10年でさらに大きく変わった。
 今回も、前回と同じように「ナヌムの家」に住み込んでの取材である。1,000回目を迎える「水曜集会」を前に、以前とは違って、さすがに地元韓国のテレビや新聞がハルモニの取材に訪れていた。米国のVOAからの事前取材があったことは、この「水曜集会」は、もはや日韓だけの2国間だけの出来事ではなくなっているということだ。
 韓国のテレビ局の(30代前半か)若いディレクターが次のように話してくれた。