Vol..136/2009/5
「遠くはなれたエルサルバドル」

 実際、鳥の目で世界を俯瞰し、蟻の歩みで現場を見つめていても、世界の国や地域がどのように関わり合っているのか、本当のところ誰にも分からない。だが、今や、インターネットの発達で、世界のニュースが簡単に手に入るようになった。世界をまるごと分かって理解したような幻想に陥ってしまう。日本、東南アジア、オーストラリア、米大陸が身近になったように感じる。だがコンピューターでは、情報の断片を得ることはできるが、電脳世界に広がる一つひとつの情報がお互いにどのようにつながっているか、そこまでは教えてくれない。それに、インターネットやマスメディアからこぼれ落ちているニュースや情報は、あたかもこの世の中に存在していないような風潮も生まれてきている。
 原稿を書きながら、ふと、我が身を振り返って、自分には具体的にどんな情報が欠けているのか考えてみた。なんと、驚くべきかな、先月、自分の住むマンションの同じ階に引っ越してきた隣人の顔を知らないのである。世界規模の話に関してはニュースを読んだり情報収集したりするくせに、地域のこと、いやもっと身近な隣近所のことに関心をもたない自分の立ち位置を考えて知った。これは私の個人的なことだけなのだろうか。自分の身の回りの情報が、どこかで分断されている。何かおかしいと感じてしまった。
 遠くはなれたエルサルバドルという国を思い起こして、そんなことを考えざるを得ない。
 
   


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