Vol..130/2008/11
「もし、平等ならば」

 深夜、東南アジア最後の軍事独裁政権国家、ビルマ(ミャンマー)最大の都市ラングーン(ヤンゴン)は静まりかえる。隣のビルのポンプが水をくみ上げるモーター音が、私の泊まっている部屋にまで響く。雨季特有の湿った雨は、どうやらやんだようだ。
 零時を過ぎてもパソコンのキーボードを叩き続ける。ちょっと危険な取材をした日は、数時間たっても興奮が冷めやらず、眠れなくなるからだ。深夜2時を過ぎても心は全く安まらない。もしかしたら、いつ何時、当局者が国外退去を告げるためにホテルにやってくるかも知れない。取材者としてビルマに入ると、常に緊張を強いられる。  1990年代初め、中米エルサルバドルを取材した時、同じような恐怖を味わったことを思い出す。取材でホテルから出るとき、ドアの隙間に、自分だけが分かるように小さな紙片を挟んでいた。留守の間、誰かが部屋に入ってきたらそれと分かるようにしておくのだ(安ホテルのため、毎日のベッドメイキングというようなものはなかった)。
 安心して眠ることができる社会とは、なんと貴重なことなのか。生まれた地域と時代と社会が違うだけで、なんと違う世界なんだ。今また、ビルマに入る度に、いつもそのことを痛感する。

 
20年前の中米グアテマラは、軍の暴力が蔓延していた。拷問され、虐殺された肉親の亡骸が秘密墓地から発見された。恐怖は軽減したが、悲しみや喪失感が消えたわけではない。
 


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