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 TAXIのドアを開けながら、僕はMADISONを見つめました。MADISONは緑の瞳いっぱいに涙をためたまま、小さく肯きました。
  「兄さん、返事が無いもんだから帰っちまおうかと思ったよ。」
  中から神経質そうなドライバーの声が続きました。サイレンを鳴らした2台の救急車がコンプレックスに入ってきたテレビ局のバンと接触しそうになりながら、すれ違って行きました。
  「それで、これからどっちに行きゃあいいんで?」
  「とりあえず、ここから一番遠い街まで行きたいのですが。」
  「なんだよ兄さん、まさかヤバイことしてきたんじゃないだろうね?」
  「いや、決してそんなんじゃありません。」
  ドライバーは、ルームミラーの中のMADISONを舌なめずりするような目で盗み見てから答えました。

  「それじゃあ空港で降ろすよ。その先は兄さんが考えるんだね。」
  この街で、その遠慮の無い視線にさらされ続けたMADISONの過去を思うとき、僕は背筋に悪寒が走るのを感じないわけにはいきませんでした。そっと隣を窺うと、彼女はポケットから何かを取り出しているところでした。

  「鏡?」
  問いかけるMORIOに、
  「そう、わたしたちのもう決して曇らない鏡。」 MADISONの消え入るような声が答えました。

 MORIOは、奪うように小さな鏡を手に取ると、じっと息を詰めるようにしてその中を覗き込みました。そして、そこにまるで冬の日溜りのようなMADISONの微笑が静かに降り注いでいるのを見たのでした。 完 次回号ではあとがきをお届け致します。