第19話 蜘蛛男といいわけ

 昔、南の島で見つかった兵隊さんが、日本に帰ってきたときの記者会見で、「恥ずかしながら帰ってまいりました」と答えていたそうなのですが、今の自分の気持ちはまさにその言葉の通りだと思いました。
 MADISONとのことは長くなりそうでしたし、かといって人目につく仕事はできないことが分かっていましたから、結局、恥をしのんでまたキャシーズにお願いする以外に方法はなかったのでした。
 オーナーからは別に何も聞かれることなく、「君は掃除が上手だから助かるよ」と言われただけで、僕の好きな時に仕事を始めていいことになりました。帰るついでにホールに顔を出してみると、バーカウンターの向こうからチャーリーが手を上げて答えてくれました。
 お店をあとに表に出たものの、

久しぶりに好きな掃除の仕事に戻れるからなのでしょうか、妙に興奮してしまって、このまままっすぐ部屋に帰る気がしませんでした。今、思い出すとこの時そう考えたのは、虫の知らせがあったとしか思えないのですが、僕は地下鉄を途中のキングスクロスで降りると、一人昼間のようなネオンサインの歓楽街を抜けて、住宅街に向かう坂道を下って行きました。


 


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