ほとんど、人通りもなくなり街路灯の明かりだけが寂しく歩道の上を照らすあたりまで下って来ると、時代遅れのネオンサインが点滅するテラスハウスが見えてきました。
 そこは、僕がこの街に来てまだ日の浅い頃に偶然見つけたレストランで、オーナーのイタリア人夫婦が趣味のように気の向いたときにだけ店を開けては手料理を振舞うといった、とても変わった営業をしているところなのでした。その代わりにと言ってはなんですが、開いている時には列ができるくらいに流行っていて、その晩もたまたま運がよく開いていたために、僕もその列の後ろに並ぶことができたのでした。
 20分ほどでテラスハウスを改造したレストランの2階に通された僕は、窓側の席に腰掛けながら、ここに来ると決まって頼むことにしている、

 フレークされたサーモンとホーレン草を生クリームであえたシンプルな塩味のパスタと、チキンと梅干をごま味醤油のドレッシングでマリネしたカイワレ大根とレタスのサラダを注文しました(このサラダは六本木と呼ばれていて、ここの夫婦が東京に行った時に六本木で食べたサラダがおいしかったので、メニューに加えることにしたのだそうです)。
 2階の部屋の中は、僕の他に4組のカップルがそれぞれに向かい合いながら、食事を楽しんでいるところでした。 僕は料理の運ばれてくるまでの間、退屈しのぎにメニューに並ぶロングブラック、フラットホワイト、ショートマキアトなどの名前を目で追いながら、いったいどんなコーヒーなんだろうと頭をめぐらせたりしていました。

   


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