ふと、細かい活字を追うのも疲れた気がして窓の外に目をやると、滑るように一台のスポーツカーが坂道を下ってくるところでした。その濃いグリーンのスポーツカーには、見覚えがありました。
 スポーツカーは窓の下をスピードを落としながら通りすぎると、1ブロック先の街路灯の下で赤いブレーキランプを輝かせながら止まりました。すぐに運転席側のドアが開いて、長身の黒い皮のジャケットを身に着けた男が、車の外に現れました。男は車の前を回り込んでから助手席側のドアを開け、黒のイブニングドレスに身を包んだジンジャーカラー(赤毛)の女性をエスコートして、目の前のテラスハウスの中に入っていきました。時間にして、わずか20秒足らずの出来事だったと思います。

  2人がテラスハウスに入ってからしばらくすると、通りに面した2階の寝室らしい部屋に、柔らかい明かりが灯りました。人の影がその中で揺れているようにも見えましたが、レースのカーテンが邪魔をしてはっきりとは分かりませんでした。黒のノースリーブの女性の方は、遠目にもMADISONに違いないことが分かりました。スポーツカーを運転していた方の男は、その仕草から彼女の恋人のような存在であるとみることができました。
 2人が中に入ってから明かりがついた事といい、たぶんそこがその男の住まいであることに間違いはなさそうでした。男の容姿は暗がりのためにはっきりとはわかりませんでしたが、背の高い機敏な動作をする、隙の無い生き物といった印象が残りました。


   


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