「何をしているの?」

 「儀式の邪魔はしないでくれ。」
 驚くほど、落ち着いた声が自分の口をついていました。MADISONは答えませんでした。
 答えない代わりに後ろ手で静かにドアを閉めると、まるで猛獣使いが逃げ出した‘けだもの’を追い詰めるように、少しずつ僕に近づいてきました。

 「儀式の邪魔はしないでくれ。」
 僕は同じ言葉をもう一度口にしました。そして、ある距離まで彼女が近づいて来たのを計るようにしてから、目の前の無防備な肉体に襲いかかったのでした。

 僕はハイエナでした。
 汚い手という手を全部使って、手に入れた獲物の肉を食い散らかしていく、醜いハイエナのように、もう死んでもかまわないという破滅のエネルギーに取りつかれながら、美しい均整のとれた彼女の体を奪い続けました。
 その全てが自分自身でした。誰のものでもない、自分の中に長い間ひそんでいた、捻じ曲がった野生の叫びがMADISONという体を通して姿を現しただけなのでした。
 そして僕は、「MORIO」という男の正体は、快楽の海の中で好き勝手に、さんざんのた打ち回ったあげく、やがて底無しの眠りの中に正体もなく転げ落ちて行くだけの脳しかない、ただのチンピラヤクザに過ぎなかったのでした。


つづく

 


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