結局、僕は何もわかっていないのだと思いました。
タイルの目地に残るカビは落とせても、瞬間に変わっていってしまう自分自身には、ついて行けないのでした。
歩き続けるうちに、さっきまでの気持ちのもやもやは、もうありませんでした。ただ、彼女を思う気持ちでいっぱいでした。
MADISONの言っていた通り、自分の一番好きなものから逃げ出してしまうような僕は、大ばか者に違いありませんでした。
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どこをどう歩いたのかも思い出せないくらいひどい状態のまま、僕は昼過ぎにバチェラーにたどり着きました。
ドアを開けると、入り口の脇の段ボール箱と、窓の隣りにある安物のパイプフレームのベッド、それに、昨日まで得意になって磨き上げていたピカピカの木の床が目に入りました。帰国を前に、すっかり整理を終えていた部屋に、それ以外の物はもう何もありませんでした。そこには、細々とではありましたが、ここまで一人でやってきたMORIOという男の小さな世界が、無傷のままに残っているようでした。
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