「何というこじんまりとまとまった人生。何という、ちまちました小さな秩序。」
そうつぶやきながら磨き上げられた床を眺めているうちに、言い様のない怒りというか、破壊の欲望が胸の中いっぱいに広がっていくのが分かりました。
僕はとっさにポケットの中にあった白墨を、床めがけて叩きつけました。床に当たった瞬間、白墨は硬い音を残して粉々に飛び散って行きました。
続けて別のポケットにあった白墨をまさぐり出すと、振りかぶりながら目の前の床に向かいました。
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そして、もうまっぴらだという思いを込めて、もう一度、白墨を叩きつけました。
白墨がうらやましい、ふと、そう思いました。もしも、この白墨のように一瞬のうちに砕け散ることが出来たなら、どんなにすっきりするだろう。
今まで、考えたこともなかった‘死’への誘惑が、心の奥底の深い闇の中から、まるで暗闇を照らす一条の光のように、傷つき混乱した心のひだに、焦点を合わせ始めていました。
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