前の車のテールランプに続いてMADISONのスポーツカーが停まった瞬間をとらえて表に出た僕は、短い信号が変わっていっせいに走り始めた車の間を縫うように、左側の歩道に向かってダッシュを始めました。
 後ろで、クラクションがしばらく鳴っていましたが、もう振り返りませんでした。やがて、諦めたようにホイルスピンの音を残して緑のスポーツカーが視界から消えて行ってしまったのを確かめてから、僕は一体自分が何をしてしまったのか分からないままに、目の前のヨットハーバーに向かって緩やかな坂を下っていきました。

 自分自身が信じられませんでした。あんなに慕っていたMADISONと奇跡のようにめぐり会えたと言うのに、何が面白くなくてこんなことをしてしまったのか本当に分かりませんでした。

 公園の時計が、朝8時半を指していました。
 鉛色の空から、矢継ぎ早に雨粒が落ち続けていました。濡れたシャツの間に、魚の鱗のにおいがわずかに残っていました。
 長い一日が、始まったばかりでした。

つづく

 


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