もう、決して会うことはないのだろうと思っていたMADISONが、今、こうして当たり前のことのように僕に話しかけてきているのです。
 「MORIO、雨が降り出す前に送って行ってあげるわ。」
 いつのまにか、朝日の隠れてしまった厚い雲を見上げながら彼女がそう話したのを潮に、僕達は立ち上がりました。
 MADISONはカウンターの上に無造作に10ドル札を置くと、白い前掛けをしたチャイニーズのおばさんに「おつりはいらないわ」と断ってから、駐車場の方に向かって歩き始めました。
 フィッシュマーケットで働く男達が、歩き始めた彼女を振り返るのが分かりました。僕は少し戸惑いを覚えながらも、

彼女の上を向いた挑発するお尻の線に改めて熱いものを感じながら、見入られるようにその後に続いたのでした。

 MADISONの車は、深いグリーンのスポーツカーでした。ベージュ色の皮張りのシートに座ってからドアを閉めると、まるで潜水艦のハッチを閉めた時のような音を残して、静かな狭い空間の中に彼女と二人きりになったのを感じました。
 彼女がイグニッションを回してエンジンをかけると、低い吠えるようなエクゾーストノートが一瞬のうちに狭い車内全体に広がりました。
 「すごい車に乗ってるんですね。」
 圧倒されて思わず敬語で話しかけている自分が嫌でした。


   


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