「MATERIALISTICでしょ?」
 そう話をしながら彼女がアクセルを踏むや否や、スポーツカーはものすごい瞬発力で走り始めました。
 「いや、すごくセンスのいい車だと思います。でも…。」
 言いかけて、僕は口ごもりました。さっき10ドル札をチャイニーズのおばさんに渡していた様子といい、ひょっとしたら僕は大変な勘違いをして、
勝手に描いた想像の世界の彼女に恋をしていたのではないかと、急に不安になってしまったからなのです。

 MADISONはそんな僕の気持ちに気づくはずもなく、降り始めた雨ににじんだフロントガラスの向こうを見つめたまま、ハンドルを握っています。
 車はウイリアム通りをキングスクロス方向に加速しながら、四車線の一番右側の長い上り坂を一気に駆け上がって行きました。
 トンネルを抜けて下り坂に入り、ラッシュカッターズベイの交差点の信号が赤に変わるのを待って、僕は隣のMADISONを振り返りました。
 「MADDIE、僕、ここで降りるよ。」

   


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