第12話 「チャンネル17」

 春になったことも気づかずに歩道のひびばかり追いかけていた僕は、ある日、テレビ局の取材を受けました。取材と言っても港でいつものようにひびに縫い目を入れていたところを、いきなりテレビカメラと録音用のマイクを持った撮影クルーに囲まれたのでした。 彼らのうちのひとりが、すごくなれなれしく話しかけてきました。
  「やっと捕まえたよ。知ってたかな?君のこの作品“歩道の縫い目”ってやつ、今すごくトレンドになってるんだよ。どんなアーテイストがやってるんだろうってね。それで、こうしてチャンネル17の取材班が街中を探し回って、やっと見つけたってわけさ。それにしても君はラッキーだったよ。今日の夕方の6時のニュース、これから映す君が主役になるんだから。オリンピックの街を駈け抜けるアーテイスト特集ってタイトルなんだけどね。きっと気に入ってもらえると思うよ。それじゃ、まず、君の名前から教えてもらってもいいかな?」

 その男の目は僕と同じ茶色だったのですが、僕のよりも随分薄い茶色の瞳でした。僕はなぜか、こいつは嘘つきの目をしていると思いました。それと、もし本当に6時のニュースで紹介されてしまうことになると、いつも頭のかたすみから離れない“不法滞在者”“イミグレーション”“強制送還”という図式が、必ず現実になってしまうだろうと思いました。
 


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