もちろん僕は彼らを無視している手前、振り返って成り行きを見守るわけにはいかないのですが、始めに誰かのカウントダウンする声が聞こえ、そして先程の濃紺のスーツの女性が話し始めました。

 「2001年、それは新しいミレニアムを迎えた年というだけではありません。このダイナミックな大都会の至るところで、いろいろな人たちが、さまざまなメッセージを発散し続けているのです。これから、ご紹介する“歩道のひびに縫い目”をひたすら入れ続ける男の子もそのひとりです。実は番組に視聴者の皆さんから、あの縫い目はいったい何を意味しているのかというご質問をここ数ヶ月の間にたくさんいただき、今日、こうしてその本人と目の前に縫い目の出来る様子を生でお伝えしているのですが、

残念ながら作者本人からの直接のメッセージはお伝えすることが出来そうにありません。この、突然この街に現れた縫い目を称して、20世紀の傷跡をつなぎ合わせようと訴えるメッセージであるとか、21世紀は広がりすぎた過去の文明を修復し、見なおす時代であると定義づけたものである、あるいは単に失恋の鎮魂歌であるなど、いろいろな議論にことかかない作品としてすでにこの街では大変有名になっているのです。そして、それが今わたしの立っている港の桟橋の上に刻々と刻まれて行っているところなのです。コメントをいただけないのは大変残念ですが、いずれにしましても、わずか白墨一本でこれだけの力強いメッセージを送り続ける作者に対し、あらためて驚きを感じずにはいられないのであります。3番埠頭から、チャンネル17 エミリー ジョンソンがお伝えしました。」

   


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