僕は、とっさに黙秘をすることにしました。黙っていれば、どこのどいつだか分からないだろうと思ったからです。僕が黙ったまま、また縫い目を書きはじめると、その男はちょっと言い方をかえて、また話し始めました。
「デイブ ロックランド知ってるだろう? キャンデイス エバンズは? みんな水曜日のこの番組から有名になった、今じゃ世界のアーテイストたちなんだよ。別に、僕らあやしい者じゃない。ほら、これチャンネル17のIDカードだよ。もしもなにか気にさわったんならあやまるけど、君、こういうチャンスは逃さないほうがいいんじゃないかな。そこでだ。まず名前から、ファーストネームでいいから教えてくれないかな」
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僕の反応が無いことを確かめてから、男は撮影クルーとたぶんインタビュアーなのでしょう、濃紺のスーツを着た背の高い金髪の女性の方を振り返り、こりゃお手上げだと両手を広げて見せてから僕に聞こえないようにひそひそ話しを始めました。
僕は、本当はすぐにでも走って逃げ出したかったのですが、周りで見ている人の目もありますし、逃げ出したりしてあいつは何かあやしい奴だと思われて、イミグレに通報されてもかなわないと考えて、とにかくじっとしていることにしました。が、内心「なんて災難が降りかかってしまったのだろう」と思わずにはいられませんでした。けれども、そんな僕の気持ちなんかにかまうはずもなく、相談を終えたテレビクルーは撮影を開始したのでした。
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