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Ijapan Vol.03
About Perth〜オーストラリア・パースを知る〜
Link to Perth 〜パースのお役立ちスポット〜
▼ Back Number
最終回「不屈」
第7回「プロフェッショナル」
第6回「決断」
第5回「プレースタイル」
第4回「言葉」
第3回「見えない壁」
第2回「挑戦」
第1回「契約書」
Vol.176/2012/9
第5回「プレースタイル」
実は、この返答には驚かされた。「“英語”で指示したり、説明したりするのは難しい」といった内容のものを想定していたが、そうではなかった。当然、山田の英語力が数週間で神がかり的に伸びたわけでもない。サッカーをしている時の英語は言語とせず、何かを伝える道具として割り切って使った、としか説明が付かない。ただ、「声が出ていなかった」というのは、単純な英語の問題ではなかった。実際に英語で指示を出し、説明もしている。
何が山田を変えたのか?チーム首脳陣は「声が出ていない」という理由でリザーブチームに降格させたが、それが本当の理由かどうかは定かではない。しかし、結果としてその忠告が、山田を動かした。現時点で言えることは、不自由な英語を使うのではなく、“使える英語”を見つけたということだろう。
そして、山田は「声を出す」ことで、自身に大きな変化ももたらした。それは、山田の売りであった“アグレッシブさ”がさらに表に出てきたのだ。以前、監督のGraham Normantonが山田のプレーについて「アグレッシブなプレーをしている時のコウジは気に入っている」と評したこともあった。
7月28日のリーグ戦17戦目。山田は見事、トップチームのスタメンに返り咲いた。「声が出ていない」といった指摘から始まり、“使える英語”で声を出し、果てはその「声を出す」ことで山田本来のプレースタイルである、アグレッシブさが戻ってきたのだ。
確かに、英語が山田の「声を出す」ことにブレーキをかけていたのかも知れない。だが、不自由な英語の中でも“使える英語”を見つけ、声に出した山田は、また一歩、次のステップを駆け上がり、殻を破ったようだった。外国人選手としての過度な期待でできた壁を打ち破ったと言っても過言ではない。トップチームでも、山田の声は観客席の一番奥まで届いている。
前出のNormanton監督が、山田と最初に会った時、こう告げている。「言葉の問題は、サッカーでコミュニケーションを取ろう」と。しかし、もしサッカーで会話をしていたら、山田のトップチームへの返り咲きはなかったと思う。“ボールがあれば言葉は要らない”と言われるが、プロのレベルでは、やはり『言葉』は必要だ。
7月28日のリーグ戦17戦目、30日のカップ戦準決勝戦ともに、山田はトップチームでフル出場を果たしている。そして興味深い点は、山田が所属するInglewood Unitedのチームの看板ともいえる中盤3選手の牙城を崩し、出場していることだ。リーグが開幕してからこの3選手は不動で、チームの心臓部を担ってきた。その3選手の中の一選手のポジションを奪い、出場機会を得ている。そのことに山田は「チームの要求が見えてきて、その要求に合わせるプレーができています。自分のプレースタイルもその要求に当てはまったのかもしれませんね」と言葉を選びなが話してくれた。
山田自身、自分の長所はディフェンスだと言う。シーズンも終盤に差し掛かり、チームの戦術としてその中盤にディフェンスの安定した選手が必要になったと監督が判断したのかも知れない。チームの要求と山田のプレースタイルがタイミングよく合致した。しかし、それは偶然ではなく、約4ヶ月間、山田がチームを俯瞰しながら、そして状況を洞察した結果とも言える。