Vol.172/2012/5
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5月10日、正式契約を結んだ。チーム名は、Inglewood United。パースに来てから79日が経っていた。
オーストラリアのプロ・サッカーリーグ、Aリーグの今季は、4月22日に行なわれた決勝戦で幕を閉じた。惜しくもその決勝戦で涙を飲んだ、パースに本拠地を置くパース・グローリーは早速、来季に向けてのチーム編成を始めた。プロのサッカー選手にとって、クラブとの契約があるからこそ、プレーができる。そのための契約交渉がまさに今、Aリーグのどのチームも行なわれている。
それと同じくして、1人の日本人プレーヤーも「契約書」に、自分の名『Koji Yamada』と記した。
『Koji Yamada』、『山田 孝次』にとって海外でのプレーは、今回が初めてではない。以前、ルーマニア1部のチームでプレーした経験もある。しかし、「自分には実績がないので」と謙虚に話す山田の目には、その言葉とは相反する強い意志が映る。
契約を交わしたチームは、Inglewood United。Aリーグが1部リーグとするなら、2部相当のリーグ(州リーグ/Football West State League Premier Division)に所属するチームだ。一般的にこのリーグに所属する選手は、他に仕事を持ちながら、夕方からの練習と週末に行なわれる試合をこなす。チーム内にもレベルがあり、試合でトップチームに入れば、試合毎に給料が発生する。練習に参加したり、リザーブチーム(二軍)の試合に出場しているだけでは、給料はもらえない。言わば、“セミ”プロ集団となるわけだが、選手の殆どが“プロ”のクラブとの契約を目指し、プレーしている。山田もその1人だ。
山田にとって今回の契約は、決して満足のいく内容ではなかった。「金額面では本気で喜ぶことはできませんが、ステップの1つを踏めたかと思えば、嬉しいです。自分は呼ばれて来た選手ではなく、自分からトライしに来ているので、これから“安い買い物ができた”とクラブ側に思ってもらえるような結果を残すだけです。契約が済み、あとはチーム内での戦いに集中できる状況まで漕ぎ付けました。これから、本当に自分の実力、パフォーマンスでの勝負になるので、ここからが本当のスタートになると思います」と話す山田の中にある次の「契約書」は、A リーグのロゴが入ったチームのものしか考えていないはずだ。