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インド太平洋地域の安全保障情勢とその重要性について講演が行われた。

10月1日に石破茂自由民主党総裁が首相に指名され、新内閣が発足した。その石破首相は、ライフワークとして安全保障問題に長年取り組んできたが、所信表明演説でもインド太平洋における安全保障について一層の強化を訴えた。そのインド太平洋における安全保障だが、10月31日に在パース日本国総領事公邸にて、慶應義塾大学法学部教授の森聡氏が「Indo-Pacific Security and Japan’s Cooperation with the United States and Australia(インド太平洋の安全保障と日本の米国およびオーストラリアとの協力)」というテーマで講演を行った。
 
講演日:2024年10月31日
 
2016年に当時の日本国首相の故安倍晋三氏が提唱した日本政府の外交方針『自由で開かれたインド太平洋(自由で開かれたインド太平洋戦略)』は、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序を維持・強化するための提起だったが、中国の『一帯一路』構想の進展や一方的な海洋進出で、当地域の海洋秩序が乱れているといった現状がある。このような状況を踏まえ、森氏は講演にて「日本は今後どのような役割を果たすべきか、また中国の進出に対してどのような抑止力で対抗できるか」といった課題に「中国による一方的な行動や武力による現状変更、そして軍備増強によってインド太平洋における優位性はもたらさないということを中国に説得し、日本や米国、また米国の条約同盟国およびパートナーとの防衛協力を推進、強化することが大切だ」と語った。また、「地域の安全保障パートナーシップを引き続き構築することで、地域諸国を安心させ、抑止力としてその地域の国民の支持を得て、侵略に抵抗する国民の決意を強化することも重要だ」とも謳った。

そして、インド太平洋地域における「日本と豪州との安全保障協力をどのように進めていくのか」といった議題には、豪州が日米共同情報分析組織(BIAC)へ参加することによって情報収集・警戒監視・偵察(ISR)協力における日米豪の連携が拡大され、また、豪州と日本が連携して進めている水中戦能力開発や、太平洋島しょ国の通信インフラ強化に向けた海底ケーブルの敷設を日本と豪州政府は更に支援してく必要性を説いた。

加えて、日豪双方の今後の協力課題として、豪州海軍の水上戦闘艦隊の見直しの中で、次期フリゲートの候補として日本の海上自衛隊“もがみ型護衛艦”が選出候補となっているが、「日本政府が引き続き授与決定に向けて努力を続けるべきである」と忠告しつつ、今年の9月5日に日本と豪州の第11回日豪外務・防衛閣僚協議、いわゆる“2プラス2”がメルボルン近郊で行われ、安全保障面での協力の強化や、太平洋島しょ国のデジタル化に向けたインフラ整備を支援することなどが話し合われたが、森氏は「今後は、米国を加えた“2プラス2プラス2”を実現すべきだ」と提唱した。

取材協力:在パース日本国総領事館


講演に先立ち、森氏のプロフィールを紹介する内藤康司在パース日本国総領事。


メルボルン、キャンベラですでに講演を終え、オーストラリアでは3か所目のパースでの講演となった森氏。


講演後、質疑応答の時間で参加者から「ドナルド・トランプ氏が米国の次期大統領になるといったシナリオの中で、中国に対して日本やオーストラリアはどのように協力すべきか?」といった質問に、森氏は「日豪は共に米国の同盟国であり、3国の共通利益のために動く必要がある」とした上で、台湾有事や関税などの事例を挙げながら対中戦略を講じるべきだと返答した(10月31日の当講演日後、11月6日に米国大統領選で「勝利宣言」したドナルド・トランプ氏。結果的に質問者のシナリオが実現したことになった)。

 


森 聡(もり さとる/Satoru Mori)

【学歴/経歴】
1995年京都大学法学部卒。同大学大学院法学研究科及び米コロンビア大学ロースクール修士課程修了。外務公務員採用Ⅰ種試験で外務省入省。同省退職後、2007年に東京大学大学院法学政治学研究科にて博士(法学)。2008年より法政大学法学部准教授、2010年から2022年まで同教授。この間、米国プリンストン大学(2014~2015年)及びジョージワシントン大学(2013年~2015年)で客員研究員。2022年4月より現職の慶應義塾大学法学部教授。また、2018年より中曽根平和研究所上席研究員。内閣官房国家安全保障局政策参与・シニアフェロー(2016年~2019年)。2020年より防衛省新防衛政策懇談会委員。2022年に国家安全保障局が実施した防衛三文書見直しに関する専門家ヒアリングに招集。2023年3月より慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート・戦略構想センター副センター長。

【研究テーマ】
米中関係・日米関係を含むアメリカのアジア戦略、先端技術と国防イノベーション、冷戦期アメリカの戦略史。

【近年の著書】
・ 『国際秩序が揺らぐとき―歴史・理論・国際法からみた変容』(編著、千倉書房、2023年)
・ 『ウクライナ戦争と世界のゆくえ』(共著、東京大学出版会、2022年)
・ 『「強国」中国と対峙するインド太平洋諸国』(共著、千倉書房、2022年)
・ 『アメリカ政治の地殻変動』(共著、東京大学出版会、2021年)
など多数

※戦略構想センター/Keio Center for Strategy(https://kcs-keio.site/)から抜粋。


 
参考資料: 「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)に向けた日本の考え方(外務省)
参考資料:第11回日豪外務・防衛閣僚協議(「2+2」)の開催(外務省)

 
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