パースエクスプレスVol.114 2007年7月号

「自らを救う合理性」

 その一人がこっそり囁いてくれた。  「政府が動員したUSDA(連邦団結発展協会=軍政の翼賛団体)のメンバーが1000人近くいるから、もしかしたらNLD側ともみ合いになるかも知れない。政府側はジャーナリストも目の敵にしているから、どさくさに紛れて危害を加えられるかも知れないから、十分に注意するように」  確かに、道路向こう側にいる男たちの存在は不気味である。言葉にできない圧力がひしひしと伝わってくる。ああやっぱり、ここは自由の制限された社会なのだな。胃がキュンと引き攣る。なんで自由に写真も撮れないんだ。何が問題なんだ。言いようのない腹立たしさがわき起こってくる。

 
 なんでビルマに関わるのか。そこでは自由に写真を撮ることができないから、というのが一つの答えではないか。ふと、そう思いついた。自分が好きに写真を撮れる環境を作りたいからビルマに関わるのだ。どうやらそれが「具体的」な答えの一つかも知れない。

 
NLD党本部前で取材を終えてタクシーに乗り込む。すぐさま、バイクが後をつけてきた。ラングーン(ヤンゴン)市内はバイクの運転が禁止されている。バイクを運転しているのは主に政府・軍関係者だけだから、後をつけられているのがすぐに分かる。

そこにこそ、自分自身を救う合理性を見いだすことができる。つまり、社会のためといいながら、そこに自分の欲望をも含ませているのを、自ら再認識するということでもある。  もちろん、自分も写真を撮るが、彼ら(軍政側)にとっての私の写真を撮るという行為−それへの威嚇であっても−それも認めるということはもちろんである。
   

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