「『デジカメ』一考」

 やっぱり、その感覚の通りだな。
 厳しい取材から戻ってくると、それまで当然だと思っていた日々の喧噪など一変していた。それこそ新しい世界に登場した人間のように、目に入る何もかもが新鮮に映ることがあった。信号機が青から赤に変わるのに驚いて、じっと見つめたり。車がエンジン音を立てて走っているだけで歓び。「ああ、人が歩いている(嬉しいなあ)」。心の中で独り言を言っている自分に気付いたり。町の市場の活気ある状況では、自然と顔がにやけてしまう。本屋に本が並べられていたり(当然のこと)、食堂で人々が食事をしているのを見て、「ああ、本当に何の心配なく食べている」と唸ったり。
 人間が生きている、生活しているんだ−そう感じるだけで、「命のはかなさを反転させた」人間の尊さを心底感じさせられてしまった。どうあがいても、人は死ぬのだ。だからこそ、大切なモノがあるのだ、と。

   
 テレビを見ながら、取り立てて意味もなく、そんなことを考えていた。すると、ふと、この数年、頭の中でモヤモヤしていた事柄がはっきりしてきた。あ、そうかそういうことだったのか、と。

 

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