「危難を共にしたタイ、ビルマでの1年間の現地取材を終え、先月10月に日本に帰国した宇田氏。その宇田氏が現地で見た真実とは。今月と来月の2回の連載で贈る『スーチー…』」
思いがけない名前が突然、耳に入ってきた。今年2月、ビルマの首都ラングーン(ヤンゴン)、下町にある友人の事務所に遊びに行っていた時のこと。声の方向を振り向く。事務所内でひそひそ話をしていたビルマ人4名は、さらに声の調子を落とした。アウンサンスーチー氏の身に何かあったのだろうか。目の前にいたビルマ人の友人Sに、「何かあったのか?」って尋ねてみる。「なんでもない」。いつもは笑顔で陽気な彼女も、素っ気なく答えを返してきた。なんかよそよそしい。そのことが気になり、話を続けようとしても、「それ以上、質問しないで」。そんな態度だった。政治の話はビルマ人同士でも危険な題材。まして、外国人の前ではタブーなのか。
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その日の夕方、定期的に情報交換をしているビルマ人のKH(35)から電話があった。
「ちょっと会いたい。」
電話では短いメッセージの交換だけ。すぐに待ち合わせの場所を取り決める。彼とは何度も会っているが、安全上の理由から同じ場所で会ったことはない。数時間後、彼から早速、その日のスーチー氏の出来事を聞いた。
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