「スーチー…(前編)」

  「上司に顔が利くコネもないし、生活は苦しかったですよ。」 運良く同じ業種の仕事が見つかり、手に技術もあったので仕事を変わる機会が巡ってきた。だが、退職許可が下りなかったのだ。上司、そのまた上の役職の人に呼び出され、脅されるような形で復職を迫られていた。 「先週も呼び出されたんだ。それも同じ部屋に軍関係者もいた。『職場復帰をしなかったら今後どうなるか分からないぞ』。それはまさに脅しだったよ。」
 新しい職場のオーナーは、彼の立場を理解してくれた。彼をマンダレー(首都ヤンゴンから北へ約400kmに位置するビルマの第2の都市)へと3ヶ月ほど転勤させてくれた。
 「そう、元の職場からの呼び出しを受けることができないようにする配慮からです。」
  彼とも毎回、会う場所を変える。人の出入りの多い繁華街の喫茶店の隅や私の借りた部屋が待ち合わせの場所だった。現地の取材で一番難しいのは、取材対象の安全確保だ。

 

単なる挨拶程度の接触でさえ、取材相手とその家族が生活しづらくなるかもしれないからだ。さらに取材内容によっては最悪、拘留・投獄さえも念頭に置いておかねばならない。そう考えると、ついつい取材する気力をそがれる。私はパスポートを持つ外国人だからそれほど心配する必要はないが、現地の人は逃げ場がない。それゆえ、取材にも二の足を踏んでしまう訳だ。自己規制ではないが、そうさせるようなシステムが存在する。    つづく

  

   


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