ヤロバ市の地震対策本部前。夕暮れ間近で薄暗くなってきた。フランスの救助チームが明々と投光器をつけて、救出活動を続けている。重機が倒壊した建物を崩していく。寝室のあたりにさしかかると機械作業は中断され、洋服や食器が手作業で掘り出されてくる。アルバムと数枚の写真が掘り出され、トラックの脇に大切に置かれていた。
アルバムを手に取り、項をめくるトルコ兵がいた。家族だろうか。目頭を押さえる彼にカメラを向け、シャッターを一度切った。顔を上げた彼は、うつろな目で私と目線を合わせ、何も言わず、すぐにアルバムに目を落とした。「もう、いいだろう」。彼の目はそのように言っていた。それ以上、写真を撮れなかった。
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地震発生から6日目、被災地に激しい雨が降った。雨に濡れたコンクリートの臭いは、なぜか死臭を思い起こさせる。冷えた空気が、鼻の奥をツンと刺激するせいだろうか。その後、雨に濡れたコンクリートの臭いをかぐと、何処にいようと、トルコの瓦礫の山にうもれた死者の存在を思い出してしまう。それは日本に戻ってきた今も変わらない。
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