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フォトジャーナリスト宇田有三氏による衝撃ルポ

On The Road by.Yuzo Uda

Vol.211/2015/08


記憶と記録の交差点(7)—<Room 411>に暮らして(2)



自然な笑顔を撮ることができた一瞬

見知らぬ女の子と遭遇し、自然な笑顔を撮ることができた一瞬(かな)。

──では、今も取材を続けている、その行動のモチベーションをどうやって保ち続けているんですか?

 自分の知らないことを知りたいという好奇心が、人一倍強いのではないでしょうか。それに未知の体験をしたときの興奮というか、感動をもう一度味わいたいと思う気持ちを絶えず持ち続けているのではないかと。実は、本当のところはよくわかりません。でも、はっきりしているのは、未知の経験から感動を味わうようになり、さらに写真を撮る行為や写真という媒体そのものを好きになったことでしょうか。もっとも、この写真を好きになったというのには、いくつかの意味があります。

 例えば、言葉の通じない見知らぬ土地に行って、現地の人とカメラを通して目と目で会話をしたという経験があります。初めての土地を訪れた時、よぽどの例外がない限りカバンの中にカメラを入れたままで動き回ることはありません。首からカメラをぶら下げ、撮るゾ撮るゾという雰囲気を振りまきながら、あちこち歩き回ります。そして、これぞという被写体を見かけたときは、その撮るゾ撮るゾというオーラを発散させながら被写体に近づいていきます。もちろんその被写体は、写真を撮られるということを意識しています。本気で嫌がる人もいますが、これまでの経験ではその数は極めて少ないです。それに、そんな人からはイヤという態度は自然と感じますので、まず近づきません。

朝靄の中漁に精をだす男性

夜明け前のデルタ地帯(ビルマ<ミャンマー>)、朝靄の中漁に精をだす男性を撮る。

 でも「うわ〜、撮られる! どうしよう…」という雰囲気を発している人物に近づき、その人の写真を自然な感じで撮った時、カメラのレンズを通してその人とコミュニケーションをしたという充実感というか、満足感を得られたのです。特に笑顔の写真を撮った際には、目と目が合ったほんの瞬間、こんにちは!ごきげんよう!と挨拶をした気持ちになるのです(自己満足かもしれませんが)。写真を撮られた人も、笑顔で返してくれる。そんな経験を何度もしているのです。

 見知らぬ土地を訪れ、歩き回って知らないことを経験する。それも良いのですが、カメラを通してそこで人と人との触れ合いがあると、もう一歩深い経験をしたと感じてしまいます。