Vol.199/2014/08
ジャングルの中で、食べるものは時として現地調達となる。大蛇を捕らえて腹ごしらえの源とするゲリラ兵。
軍事政権(当時)のビルマ政府に対して、少数民族の一つ、カレン民族が武装抵抗闘争を続けていた。そのカレン民族のゲリラの総司令部に滞在中、「明日、前線に行く機会があるんだが、行くか?」と問われたことがある。私の取材の一つは、軍政下において抵抗する人びとの暮らしなので、戦闘の起こる最前線も取材に含まれている。もちろん、前線の戦闘が実際、どのように行われているのが自分の目で見てみたい、実際の戦闘を経験してみたという希望もある。だが、最前線に行くのは、口で言うほど容易なわけではない。
戦闘の起こっているジャングルの中の最前線へは、歩きやすい道はほとんどビルマ国軍におさえられている。そのため、ゲリラ部隊との行軍は、おのずと獣道を行かざるを得ず、藪を漕ぎ、地雷原に足を踏み入れなければならない。最前線にたどり着いても、カレン民族の戦法はゲリラ戦を取っているため、写真撮影は難しい。雨季であれば、雨に打たれ、びしょ濡れになるだけで、写真を一枚も撮れないこともある。それこそ、徒労だけが後に残ることもある。ゲリラの総司令部で取材するだけでも、十分なわけだし、マラリアやデング熱の蔓延するジャングル行きは、できれば避けたいところである。
特に冒険好きな性格でもない私が現場行にこだわるのは、もちろん写真家という仕事柄、実際のところ「そこ」に行かないと、写真を撮ることができるかどうか判断できない、というのもある。写真を撮ることができるかどうかは、現場に行ってこそ初めて分かるのであるからだ。
もっとも、それ以上に、現場に行くもう一つの大きな理由がある。それは、逆説的に聞こえるかも知れないが、現場に行くことによって、果たして現場に行っても捉えきれない(撮影できない)何かが存在することを、現場に立つことによって初めて気づくからだ。だからこそ、取材者は、とりもなおさず、まず現場に行かないと話にならない。
そこで、最前線に「行くか?」と問われて、「行く」「行かない」を選ぶ際、実は自分が試されることでもあった。ゲリラ総司令部でさえ、一週間放置しておくだけでカメラのレンズにカビが生えてくる高湿度の生活環境にあるのだし。それに雨季などは、ジャングルの中に入り込んで取材をする物好きは他にはいない。誰も見ていないのだから、ある程度の妥協をしても、何ら問題は無い。ちょっとぐらい楽をしてもいいかな、と思ってしまう。自分に向き合い、自分の仕事に正直にならざるを得なくなる。そこまで追い詰めないと己に正直になれない自分というのも情けないことではあるが…。