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フォトジャーナリスト宇田有三氏による衝撃ルポ

On The Road by.Yuzo Uda
Vol.194/2014/03

「抗いの彷徨(4)」



被写体に近づき過ぎるほど接近する

被写体に近づき過ぎるほど接近する。ある一時期、こんな撮影スタイルを通していた。

 この50mmレンズで被写体にあい対すると、「ほどほど」の距離感を実感できる。人物写真を撮ろうものなら、遠すぎず近すぎず、緊張せず、という感覚である。私も当初、この標準レンズだけで写真を撮り始めた。
 ところで写真には、風景写真やスポーツ写真、建築写真やポートレートなど様々な種類と分野がある。例えば私がメインとしているドキュメンタリー写真の場合、慣れない土地で言葉も通じない状況でも写真を撮らなければならない。普通の感覚からすると、見知らぬ土地で赤の他人にそうそうカメラのレンズを向けるには勇気がいる。気後れしてしまうのが当然である。そこで私は、そんな弱気な態度を鼓舞するために、被写体である人物に近づかなければその人をキチンと捉えることができない24mmの広角レンズを多用していた。
 「戦場カメラマン」の元祖ロバート・キャパは、"If your pictures aren't good enough, you're not close enough." (「自分の作品が不十分だと感じたなら、それは(被写体に)十分に近づいていないからだよ」)という名言を残している。
 もちろんこの言葉は、被写体に対する実際的な距離のことであるが、私はそれに加えて、被写体に対する共感を含んだ文句だと思っている。