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フォトジャーナリスト宇田有三氏による衝撃ルポ

On The Road by.Yuzo Uda
Vol.176/2012/9

「ビルマ(ミャンマー)の『ロヒンジャ問題』を手がかりにして(1)」


イスラーム教徒のバングラデシュ人女性

夕暮れが近づく。畑で働く連れ合いの仕事が終えるのを待つイスラーム教徒のバングラデシュ人女性(2012年8月)。


 バングラデシュと国境を接するビルマ(ミャンマー)西方のラカイン州で5月末、仏教徒のラカイン人女性(27歳)がイスラーム教徒と目される3名の男性に強かんされ、殺害されるという事件が起こった。
それをきっかけにして翌6月から、仏教徒のラカイン民族とイスラーム集団(ムスリムのロヒンジャ集団と非ロヒンジャ集団)とが武力衝突を起こすことになった。この事件は、死者80名以上、負傷者も数百名以上、さらに焼き討ちや略奪が広がり避難民を7万人出す事態にもなった。それを受けて、外国人のビルマ・ラカイン州への立ち入りは禁止された。
 国際的にも一時期、この衝突のニュースは報道された。だが、それは単に仏教徒とイスラーム教徒の対立として、或いはラカイン民族とロヒンジャ族との民族抗争として報道されてしまった。

 東南アジア最後の軍事独裁政権ビルマ(ミャンマー)は、昨年から、「民政移管」によって誕生した新大統領のテインセイン氏とアウンサンスーチー氏が会談後、急激な変化を起こしている。それを「民主化」と評する人もいる。だが、ビルマを専門とするある歴史学者はこう語る。
 「ビルマにおける民族問題は、社会編成にかかわる根本的問題です。民主化問題より根が深く重大な問題で、独立後から一貫して変わりません」
 「東西冷戦」が終結した1980年代後半からの世界的な紛争の傾向が、ビルマでも起こっているのか。つまり、独裁などの大きな権力基盤が失われたら、次は民族紛争が発生するというお決まりのパターンなのか。