それにしてもすさまじい記録である。しかし、と、私は思う。その過去の悲惨な状況に囚われるあまり、今のカンボジアを見なくていいのか。町に溢れる今のカンボジアの人を見ないでいいのか。過去に目を向けるのは、そこから今を考えるためである。なのに、今のカンボジアはほとんど相手にされない。それでいいのか。そういうちょっとした無関心の隙間から、次の問題の種がまかれているはずなのに・・・。

 そんな私の思いとは全く無縁に、ブルトーザーはうなり声をあげる。完全に暗くなっってしまった。人々の表情はもはや判別できない。時計を見せたり、指で数字をつくったりして、

 

何とか身振り手振りで、ケムシェ君に聞いてみる。
 「いつまで働くの?」と。「夜11時まで」、という。何かの間違いではないかと、何度も確認した。やっぱり11時だった。彼の頭にはしっかりとライトが取り付けられていた。
 カンボジアでも私は当然のように写真を撮った。自分の体験したカンボジアを撮った。考えがまとまらないからこそ写真を撮った。撮り続けることで、あやふやな自分の態度にけじめをつけようと思った。記録に、記憶に残る一瞬としてシャッターを切り続けた。今のカンボジアの姿の一面を表す、語らぬ証言者たちを前にして、私にはそれしかできなかった。

 


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