Vol.144/2010/1
「閉ざされた国 ビルマ(後)」

 ちょうど5日前、山に入った初日。護衛のカレン兵の1人が無線機を私の目の前に差し出した。ガーガーと騒音のような音をたてる無線機に、かすかに言葉が交じる声が聴き取れる。
 「ほら、ビルマ軍が交信しているんだよ。『今日、外国人が1人入ったぞ』と。あなたのことだよ」
 「さ、これから奴らに捕まらないように動かないと」
 山の中でしゃがみ込んだ私の前には、青々とした雑草が生い茂っていた。名の知らぬ長い葉の上で、名の知らぬ虫が動き回っている。伸びきった細長い葉の先に米粒ほどの虫が足を動かしている。地面にも名の知らぬ虫が、濁った色の小石や朽ちた枝の間を行き来している。
 もし、ビルマ国軍に見つかり捕らえられたらどうなるのだろうか。そう思うと、緊張と不安で胃の奥が収縮していた。過敏になった聴覚が、森の中に谺する虫の音や鳥の鳴き声をいつも以上に捉えて、頭の中でガンガン響く。
 5メートルほど離れたところで、緊張した顔を崩さない護衛のカレン軍兵士と目が合う。自動小銃を構えたまま中腰で微動だにせずである。
 人差し指を唇に当てて、静かに、と合図してくる。目と目で話を続ける。
 「動くな。音を立てるな。そのままでいろ」
 「あとどのくらい」
 「わからない」

 
Irrawaddy Delta (Ayeyarwaddy) in Burma, 2007
 


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