静寂の中、しゃがみ込んだ人間たちの息の音だけが不自然に伝わってくる。目の前20センチのところで我が物顔で動き回る虫の自由を羨ましく思う。無慈悲な人間の一足によって無残にも踏み殺されるかも知れない虫たちが、今は自由だ。
風が吹く。
ザワザワと葉が擦れ合う音がする。
ああ来なければ良かった。
追い詰められて本性が出た。
だからこそ、帰るところのある我が身を却って忌々しく思った。
まさに、その時、時間が止まっていた。恐怖におののいて、ただひたすらビルマ国軍が通り過ぎるのを願っていた。中途半端にしゃがみ込んだ姿勢で身体を踏ん張り続ける。目にしみ込む汗で涙が流れ出る。ぬぐってもぬぐっても流れ出る。緑の葉っぱの鮮やかさと虫の動きが今も忘れられない。そんな思いを胸にビルマを歩いてきた。
町の中や村の中を、さらに山を越え密林を歩いてきた。
だが、それ以上に本当のところ、ビルマの人びとの間を歩いてきた。そうやって歩きながらさまざまなビルマを目にし、写真に撮してきた。
そして、今なら、あの老人に言える、自信を持って。
日本の、ビルマに侵攻したあの時代の加害者としての戦争は間違っていたと。そして、軍事政権下の戦争が何であるかを。
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