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パースエクスプレスVol.236 2017年9月号

≫スペシャルインタビュー「強豪国から来た指導者がみるオーストラリアの将来性」

≫Japanese Sake specialist & grocery store manager's First Trip to Japan    



関根 健寿(せきね たけとし)
1992年生まれの埼玉県出身。兄弟の影響で5歳から柔道を始め、名門国士舘大学の付属中学校から大学まで柔道部で副キャプテンを務める。2010年ジュニアアジアスポーツ交流大会66s級で優勝。現在、西豪州大学付属スポーツ施設「UWA Sport」の職員、プロジェクト“Judo for school”の“先生”を兼任し、また西豪州柔道クラブのコーチとして柔道を教える。柔道4段。
前島 一貴(まえじ まかずたか)
1986年生まれの東京都出身。9歳から体操競技を始め、中学生の時は体操種目の床で日本一に。名門日本体育大学体操部ではキャプテンを務める。2015年西豪州体操チャンピオンシップ優勝。現在「High Flyers Trampoline & Gymnastics Academy」にて体操を子どもたちに教える。パーソナルトレーナー有資格者。本誌「前島イズム 継続のエクササイズ」寄稿中。

 パースの体操クラブでコーチとして体操を教える前島一貴さんと、スポーツ機関の職員兼柔道クラブのコーチとして柔道の指導にあたる関根健寿さん。
 共に現役時代、オリンピック出場を目指し、日本国内の高きレベルでライバルたちと争ってきた。今では現役を退き、後進の育成に身を投じているが、体操、柔道共にオーストラリアは世界でも高いレベルにあるとは言えない、そのオーストラリアを指導の地に選んでいる。
 当地での指導を通して、オーストラリアにおける体操と柔道の現状と将来性などについて伺った。



まず、それぞれのスポーツにて、日豪の指導方法の違いがあればお聞かせ下さい。

前島一貴さん(以下敬称略)
「パースで子どもたちに体操を教えて2年弱になりますが、正直、最初は大変でした。整列ができなかったり、ポケットに手を突っ込んでコーチの話を聞いたりと…。ポケットに手を突っ込むのは個性と捉えるのも理解できますが、自分はその点はさせませんでしたね。ただ、そんな中でも自分はオーストラリア流で指導していると思います。もし、日本流で指導していたら、やり過ぎで親御さんからクレームがきます。難しいことですが、日本とオーストラリアの共に良いところを取り添えて、指導できればと思っています」

関根健寿さん(以下敬称略)
「現在、自分は子どもから大人までの選手を教えています。最初は正直、“これは…”と思うことがありました。例えば、稽古最中に座り出したり、寝っ転がったり、無駄話をしたり。そこで、自分はまず、礼、正座、挨拶から教えました。もちろん、それを理解できない子もたくさんいました。ただ、少し乱暴な言い方ですが、それが柔道なんだと指導してきました」




お互い「指導はビジネスではなく、将来は競技会などで勝てる選手を育てていきたい」と話す前島さんと関根さん。



指導をしていて、日豪における子どもたちの違いは何か感じますか?

前島 :「オーストラリアでは、コーチの話を聞く子は聞きますが、聞かない子は、それまでといった感じです。一方、日本は周りの子が聞いていない子に“聞けよ”と促すケースが多いと思います。その点が、日本はチームワーク、つまり協調性があると言えるでしょう。それと、日本の子どもたちの方が我慢強いと思います。コツコツと時間をかけて、完成度を上げていくのが日本ですね。一方、オーストラリアは、できなければやり方を変えて完成させていくタイプかもしれません」

関根 :「もちろん、個人差はありますが、柔道も同じですね。あと、例えば試合中、想定外のことができる爆発的な強さのようなものは、オーストラリアの方が持っているかもしれません」




小学一年生の時の全国大会で大外刈りという技を決める関根さん(左)。内股という技をかける関根さん(上)。



オーストラリアにおける両スポーツの強くなる要素とは?

前島 :「まず、競技人口も関係あると思います。ただ、体操は6種目あるので、得意不得意を見極め、得意なものに力を入れることもできます。この切り替えるができるのは日本よりオーストラリアの子どもたちかもしれません。できるまで、やろうとするのは日本人かもしれませんね。その点は切り替えられるオーストラリア人にもポテンシャルがあると思います。それと、外国人がビザを取得する際の職業カテゴリーに“ジムナスティック・インストラクター”があります。つまり、政府が海外から体操のコーチを招致し、補強したいという考えがあるということになるので、要素はあると考えられますね」

関根 :「自分は、ここに“Teacher”ではなく、“先生”としての指導を求められているので、日本の柔道を教えています。例えば、“敬う”ことや“尊敬”すること、それが縦社会といわれているシステムのことかもしれませんが、自分の稽古ではそれを言葉にして教えています。親御さんから、柔道を始めて目に見えて、変化があったと聞きました。小さなことですが、脱いだ靴下を脱ぎっぱなしにしないで片付けるようになったと感謝の言葉を頂きました。草の根ですが、進歩がみられるということは要素があると思います」




現役時代、鉄棒種目でD難度のコバチという離れ技を成功させる前島さん。




では、両競技におけるオーストラリアの将来性は?

前島 :「全てのスポーツの基本となるのが体操だと思います。その意味で、まずはレクリエーションの要素から体操を始める子も多いと思います。そして、体操は必ず技にトレンドがあります。トラディショナルというよりトレンドが体操を始めるきっかけになっている子もいると思います。しかし、その子たちが近い将来、世界の強豪たちと名を連ねるのは正直、長い道のりになるかもしれません。自分のクラブで成績優秀な子が、家族の理由で練習に参加できなかったり、辞めてしまったりしています。そうなると、いちコーチとしての自分では、残念ですが何もできません。オーストラリアの家族の在り方にも、将来性は大きく影響すると思います」




関根 :「柔道を始めるきっかけは、日本文化に興味があるからという人もいます。古来の忍者や武士に興味を持っている人が、柔道を始めるといったケースもあります。最近では、総合格闘技に興味を持ち、その格闘家が柔道の選手だったから、というケースもあるようです。ただ、自分は一貫して、教え子たちには“柔道家”としての在り方を教えています。勝負への勝ち負けだけ教えるのでしたら指導方法は変わります。柔道家への道のりの線上に勝負の勝ち方はあるので、今は柔道家になるための本質を厳しく、徹底して指導しています。国民性を変えるのは不可能ですが、柔道家としての在り方が少しずつ浸透すれば、オーストラリアの柔道界には将来性があると信じています」




編集部よりインタビューを終えて

  日豪における体操、柔道の指導方法の違いからオーストラリアでの教育システムを垣間見た気がしました。子どもたちのポテンシャルは日本もオーストラリアも変わらないのでしょうが、両スポーツが競技となった時には国民性によってまだまだ勝敗の差はついてしまうのかもしれません。お子さんをもつ親御さんにも興味深く、またオーストラリアで両スポーツをする人にも参考になるお話だったと思います。






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