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現役新聞記者が、過疎化・少子高齢化が進む日本を追う

ムラの行方 藤井 満

Vol.192/2014/01

第21回「たたらの里の暮らし考(21)」


荒神谷遺跡に立つ藤岡大拙さん 1996年に発見された加茂岩倉遺跡

荒神谷遺跡に立つ藤岡大拙さん。

1996年に発見された加茂岩倉遺跡。国内最多の39個の銅鐸が出土した。


 藤岡さんが子どもの頃、駐在所の看板には「見知らぬ人を見たら通報を」と書いてあった。知らない人が通ると「借金とりじゃなかろうか」などと噂しあった。「よそ者=悪」と決めつける閉鎖性が、ズーズー弁を残す基盤になったと藤岡さんは考えている。

 閉鎖的な世界で、ずっと同じ人とつきあうから、人間関係には細心の注意を払う。
 料理のおすそわけをする時は「余計に煮すぎて。味がいけんかったら猫にでもやってくださいな」と卑下する。本音は「おいしいから食べて」だ。京都で「ぶぶ漬け(茶漬け)でもいかが」と言われたら「帰ってくれ」という意味だが、他県から来た人が「お茶でもどうぞ」と誘われて家に上がったら、お湯もわいてなかったというエピソードもある。
 「島根にはなんもないでしょ」と自嘲的に言う人が多いが、これも内心では「ええところもあるんだぞ」と思っている。だが、都道県の認知度ランキングは鳥取と最下位を争っているし、県民所得も最下位に近いから、「馬鹿にされる前に、つまらんところ、と言ってしまおう」と考えるという。
 そういう気遣いが若いころの藤岡さんは嫌でたまらなかった。だが今は「自由自在に駆使して快適や」と笑う。
 1990年ごろ出雲弁のシンポジウムを開き、出雲弁保存派と否定派の意見を紹介しようとしたら、否定派が見つからなかった。かつての出雲弁への拒否感を知るだけに驚きだった。

「共通語を話せる中堅世代にとって出雲弁は、第2外国語のようなものでハクになる。出雲弁を教える学校もでてきた。東京のテレビのトーク番組は、けんか腰でおもしろいけど、日々使いたい言葉ではない。出雲弁はオンボラ(あたたかい)でハートをのせられる。やわらかい言葉を送ったり送られたりしたい、という時代の要求が、出雲弁ブームをもたらしたのではないでしょうか」