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現役新聞記者が、過疎化・少子高齢化が進む日本を追う

ムラの行方 藤井 満

Vol.190/2013/11

第19回「たたらの里の暮らし考(19)」


宍道湖から流れ出る大橋川の対岸が白潟地区

宍道湖から流れ出る大橋川の対岸が白潟地区。手前の橋は小泉八雲の作品にも登場する松江大橋。

■松江・白潟地区(下)

 松江市内の小学校長を定年退職した仁田玲江さん(66)は2004年春、白潟公民館長に就任した。白潟に住むのは初めてだ。高齢化率が3割を超え、旧松江市内で最も高いと知り、まず高齢者にアンケートをすることにした。
 地区内に35人配置されている「福祉推進員」が、75歳以上の322人を1軒1軒訪ね、半年かけて悩みや課題を聴く。そのなかで、軽い体操で人と交流したい、ボランティアなど社会貢献をしたい、緊急時の避難が不安…、といった課題が見えてきた。
 まず、防災問題に取り組むことにした。
 06年、白潟地区内を9ブロックに分け、各ブロックごとに「防災ふくしマップ」を作った。市指定の避難所までたどりつけない高齢者もおり、かつての水害では、床が高い寺院に避難した人が多かった。そこでブロックごとに独自の避難所を決めた。水害時にトイレの水に困った経験から、地区内にある井戸を地図に記した。住民自身が井戸の所有者と交渉して、了解をとった。
 「この町はすごい! 住民自らが次々に動いている!」と仁田さんは驚いた。
 防災マップを作り、井戸などを調べるなかで見えてきたのが地区の歴史だ。
 新大橋通りには、今は暗渠になっている和多見川が流れ、白潟地区は大橋川と天神川と和多見川に囲まれた砂州の島だった。砂に水がしみ通り、地下の粘土層にはばまれて水脈ができたから井戸が多く、造り酒屋もあった……。そんな歴史を学ぶなかで、高齢化率が高いからこそ、歴史や生活の知恵の宝庫であり、高齢者を歴史の「伝承者」と位置付ければ、生きがいづくりにつながるのではないか、という発想が生まれた。