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現役新聞記者が、過疎化・少子高齢化が進む日本を追う

ムラの行方 藤井 満

Vol.189/2013/10

第18回「たたらの里の暮らし考(18)」


夏の天神祭には無数の露店がならび、市民が押し寄せる

夏の天神祭には無数の露店がならび、市民が押し寄せる。

■松江・白潟地区(上)

 月一度の「天神市」が開かれた2010年3月25日、松江市の松江天神町商店街には、鮮魚や野菜、菓子などを売る40店余りの露店が軒を連ねた。白潟天満宮には鮮やかなのぼりがひるがえり、境内の「おかげ天神」にはお年寄りが次々に訪れ、幼少期の菅原道真の像を水を含ませた布でぬぐって手を合わせる。「10年前に天神市が始まって、参拝客が増えましたねえ」と、近所の商店の女性は話す。
 「お年寄りにやさしいまちづくり」をテーマに掲げて10年、天神市には親子連れが増え、パン屋と食堂を兼ねる障害者の授産施設も開店した。最近は高齢者に限らず、すべての社会的弱者にやさしい町にしようと、うたい文句を「ひとにやさしいまち」に切り替えた。
 天神町商店街は、かつて松江随一の繁華街だったが、1980年代に郊外に大型店が進出して、くしの歯が欠けるように商店がシャッターを下ろした。
 数百万円をかけてコンサルタント業者に頼んでも、店のデザインの統一とか、アーケード改装で若者を呼び込む……といった案ばかり。そんな中、1999年、「(商店街のある)白潟地区は市内で最も高齢化が進んでいるのだから、お年寄りにやさしい町づくりをしたら?」と市役所から提案された。「年寄りを集めてどうするんだぁ」などと躊躇していると、「銭があるのは若者じゃなくて年寄りや。年寄りは孫に仕送りして、亡くなったら都会の息子が相続してしまう。銭をここで使ってもらわないけん!」と当時の宮岡寿雄市長に説得された。

 「おばあちゃんの原宿」としてにぎわう東京・巣鴨の「とげ抜き地蔵」にヒントを得て「おかげ天神」を建て、毎月25日は歩行者天国にして「天神市」を始めた。「商店街が独自に『歩行者天国をしたい』と警察に頼んだら、年1回でも難色を示されるが、行政が音頭をとったからすんなり実現した」と中村寿男・中村茶舗社長は振り返る。00年には、島根大学の学生の拠点「おかげ庵(現在は島根大学白潟サロン)」が空き店舗に開設され、退官した名誉教授らが常駐し、地区の知恵袋の役割を果たすようになった。