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現役新聞記者が、過疎化・少子高齢化が進む日本を追う

ムラの行方 藤井 満

Vol.189/2013/10

第18回「たたらの里の暮らし考(18)」


白潟天満宮境内にある「おかげ天神」 40軒の露店がならぶ「天神市」

白潟天満宮境内にある「おかげ天神」

毎月25日、歩行者天国になった商店街に40軒の露店がならぶ「天神市」。


 なぜ、地域が協力しあって「天神市」などの催しを10年間も継続できたのか?
 中村さんは夏の「天神祭」の存在が大きいと指摘する。「祭りがあるから世代を越えてみんなが顔見知り。だからまとまりやすいんです」。町外に転出した若者も参加する天神太鼓や神輿の組織は、イベントを催す際にもフル回転するという。
 白潟サロンの事務局長を務める伊藤孝一さん(55)の家は、白潟地区の灘町で明治時代まで鮮魚店を、その後は建築業を営んできた。だが、マイカーの普及で従業員の駐車場を確保できなくなり、昭和40年代に郊外に移転した。
 4年ほど前、老いた父が自家用車で事故をくり返すようになった。運転を禁じると家に閉じこもり、一気に老け込んだ。郊外では、自動車なしには買い物もできない。「25年後の自分の姿だ」と焦った。老後に白潟に戻るため、今のうちに住みよい町をつくろうと、町づくりに没入するようになった。  天神市は全国的にも注目されているが、商店街の現状は「下降線を多少抑えた程度で活性化にはほど遠い(伊藤さん)」。地域再生プランナーの久繁哲之介は「地域再生の罠(ちくま新書)」の中で、同商店街が月一度の「市」の日以外は、ガラガラであり「成功モデル」ではないと指摘する。
 人が住まない街では商品は売れない。街を元気にするには「まちなか居住」しかないと伊藤さんは考えるようになった。
 そのためには、郊外に住む高齢者の土地を買い取って子育て世代の若者に紹介し、中心街の住宅を高齢者に斡旋する仕組みが不可欠だ。
 「不動産の仲介は、税金の問題もあって民間にはできない。かつての宮岡市長のように行政が主導してほしい。郊外を開発するより、すでにインフラのある中心市街地を活かすべきです」と伊藤さんは話す。


(続く)



〈白潟地区〉

松江市中心部にあり、戦前は大橋川や天神川の水上交通が盛んで、松江大橋に面した白潟本町から天神町、竪町まで三つの商店街がつらなる繁華街だった。だが、中心市街地のドーナツ化により少子高齢化が進み、2010年2月末現在、人口3,397人、高齢化率は34%。