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現役新聞記者が、過疎化・少子高齢化が進む日本を追う

ムラの行方 藤井 満

Vol.186/2013/07

第15回「たたらの里の暮らし考(15)」


斐伊川沿いにある西日登小学校

江の川沿いのわずかな土地に開けた、旧大和村中心部の都賀本郷(奥)と都賀西(手前)。

■離島のムラの人づくり(上)

 本州から北へ60キロ離れた離島隠岐にある海士町をはじめて訪ねたのは、2009年9月のことだった。玄関口の菱浦港には総木造作りの「きんにゃもにゃセンター」がそびえ、売店には島じゃ常識「さざえカレー」や「海士の塩」……といったオリジナル商品がならぶ。どうせよその業者が作ったんだろうと思って裏のシールを見ると大半が島の製品だ。沖縄の「海人(うみんちゅ)」Tシャツによく似た「海士人」というTシャツも売れている。
 「きんにゃもにゃセンター」には役場の観光担当の課があり、黒いTシャツ姿の若い女性職員がフェリーから降りる客に「何か観光案内がありましたら…」と声をかけている。
 島根県の最僻地の離島なのに独特の開放感がある。沖縄の石垣島あたりの雰囲気に似ている。不思議な開放感と活気の理由を取材するため、2年後の11月、再び訪ねた。

□給料削減で再生へ

 平成の大合併が吹き荒れる2003年12月、海士町と西ノ島町、知夫村でつくる任意合併協議会は解散し、それぞれ単独で存続することになった。さらに国の「三位一体の改革」で地方交付税が大幅に削減され、海士町は、貯金にあたる基金が08年度までには底をつき、財政が破綻すると試算された。前年に就任したばかりの山内道雄町長は、自らの給料の3割削減を決めた。
 04年2月、美濃芳樹・総務課長(55)ら4人の課長は「自分たちも給料カットを提案しよう」とひそかに話しあった。美濃課長以外の3人はかつての青年団の仲間同士だ。50歳代の役場職員の賃金は、町内の民間の平均より3割高い。「我々公務員がぬくぬくやっていて、財政難を理由に住民サービスを削るわけにはいかん」と考えた。
 夕方、役場の会議室に10人余の管理職を集め「給料30%減」を提案した。青年団OBの1人が「僕は子どもがいないから50%でもいいよ」と口火を切る。欠席した元青年団長からは「30%、これしかない!」というファクスが届いた。